「100年企業」という目標に込められた思い
MZ:ヘラルボニーは様々な場面で「100年企業」を目指すと明言されています。ここにはどのような思いがあるのでしょうか?
國分:我々が最終的に目指してるのは、障害のイメージを変え、新しい文化を創造していくことです。そのため、5年先や10年先ではなく、そのずっと先を見据えながら日々活動しています。
これまでご紹介した事業の他に、会社として社会的運動に近いようなメッセージの発信もしています。たとえば選挙の際に岩手日報さんと実施した「#CAREVOTE」 というプロジェクト。これは、知的障害のある人が投票に行く際の課題を可視化し、選挙に参加しやすい環境をつくるアクションです。その一環として、7月8日の「岩手日報」朝刊別刷で、知的障害のある人とその家族が選挙に参加しやすい環境づくりを補助する「やさしい投票ガイド」を公開しました。

他にも、2023年に発信した企業広告「鳥肌が立つ、確定申告がある。」 には多くの反響をいただきました。これは、弊社の契約作家のご両親から「息子が扶養の基準を超えて、確定申告することになった」という連絡をいただいたことを受けて制作した広告です。
確定申告は、一般の人にとっては面倒なものですが、障害のある子を持つ親からすると、そうではありません。お子さんのアートの価値が認められ、稼ぐことができているからこそ発生するイベントであって、確定申告が親御さんの希望になるわけです。
手を繋ぐ先を増やし、文化を創造していきたい
MZ:最後に今後の展望について教えてください。
國分:まずは、素晴らしい才能を持つ作家たちに、正当なレベニューをシェアすることに引き続き取り組んでいきます。BtoBのアカウント事業の売上は前年比で1.84倍、協業企業数は年間およそ150社に伸長し、作家へのライセンス使用料の年間支払額は過去3年間で15.6倍にまで増加しました。
我々がビジネスを拡大していくことは、クリエイターの社会への影響力を大きくし、社会の価値観を揺さぶることにもつながります。そうした社会との接合も意識しながら進めていきます。

それに加えて、自分たちへの問いとして持ち続けていることがあります。1つは、アートを生み出す作家だけでなく、障害がある多くの方々が経済や社会と繋がっていくにはどうしたらよいかということです。障害の有無にかかわらず、アートには才能が必要な側面があります。ありのままでも仕事があり、収入を得られる仕組みがあってもよいと考えています。
また、私たちの活動は人々の心に訴えるものではありますが、生活そのものを変えることができているだろうか、という問いもあります。ヘラルボニーのアートで空間や生活を彩ることはできても、それでインクルーシブな環境になるわけではありません。
今のところ、ヘラルボニーとの共創はモノやコトに落とし込まれることが多いですが、たとえば、街作りやオフィス作りにも手を広げ、障害のある当事者の方に提案をしてもらいながら空間を作り上げていくような共創の仕方があってもよいかもしれません。「異彩」というものをより拡張し、手を繋ぐ先を増やす。価値観だけでなく、生活や文化そのものを変えていく。長期的にはそんな共創の形を考えていきたいです。
