社会意義:Sephora - Black Beauty Is Beauty
最後に、新たに現れてきている、社会的な意義を顧客体験に求めるニーズにも触れさせてください。
LVMH傘下で化粧品や香水を扱うSephoraですが「Black Beauty Is Beauty」というDEI活動を始めて話題となっています。キャンペーンビデオでは、黒人文化が美容業界にもたらした多大な貢献を称える内容となっており、多様性に対するSephoraのコミットメントを伝えています。2022年には「小売における人種差別の撤廃」に署名をし、すべての顧客に対して等しく歓迎されるサービスを提供することを宣言しました。
またAppleでは多様な顧客に対して最適化された体験を提供しています。手話を使う顧客はHandTimeを通して問い合わせを行うことができ、Apple Watchの画面に触れるのが難しい方にはAssistiveTouch機能を提供。また視覚に障がいがある顧客に対しては、画面の文字を読み上げるVoiceOverアプリなどを提供しています。
このように、ブランドが社会的な意義を重視し、多様なニーズに応える取り組みを進めることは、より包括的な顧客体験として、今後評価がされてくるでしょう。
まとめ:顧客体験は顧客がデザインする時代に?
今回の記事では、調査から生活が顧客体験に求める主要ニーズを事例とともに紹介しました。現在のニーズを大きく分けると以下のようにカテゴライズできるかと思います。
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体験の効率化:忙しい現代の生活を反映した時間効率化ニーズ。いかに短時間でサービスを受けられるかを重視。
事例:Zepto(時間効率)、Airbnb(検索効率)、Chewy(常に迅速) -
体験の主体化:自己を中心とした顧客体験コントロール。パーソナライゼーションも与えられるのではなく能動的に行う。また顧客体験の最適化に必要なデータ開示に対しても、自身でプライバシー保護をしたい。
事例:Spotify(ハイパー・パーソナライゼーション)、Samsung(データ保護) -
体験の社会価値化:新たな社会正義を感じられる体験への共感。自身のショッピング活動に社会的意義を見出す。
事例:Sephora(社会意義)
以上を俯瞰でみると、従来の「サービスを受容する」という常識は変化し、顧客体験を「自ら主体的にコントロールする」時代への進化してきていると考えられます。
本来のCXにおける機能的価値は時間効率という部分に特化。代わりにパーソナライゼーションやデータ保護の事例に見えるように、顧客自身が体験をデザインする潮流が見えます。社会正義を背景にした購買運動的な行動も、主体的なショッピング体験と捉えることができます。
かつてはデパートで店員から丁寧な接客を受けて購入していた高級品は、オンラインショップでワンクリック。一方でファストフードは、好きなように細部までカスタマイズに参加する。非日常(高級品/贅沢な時間)と、日常(日用品/普段の生活)の境界線が曖昧になる現代で、より自由に自身の望む顧客体験を生活者は望んでいるのだと考えられます。
溶解する顧客体験の生活者からのニーズは、まさに変化の最中という印象を受けており、この分野には引き続き注目をしていきたく思います。
