分析の対象とする商材
前ページの内容を踏まえて、QPRを使った時系列データの可視化を実践してみましょう。
今回は「コーヒードリンク」を採用して、分析を進めたいと思います。「コーヒードリンク」は年間を通じてコンスタントに購入される傾向があり、他の商材と比較して季節性やトレンドの影響を受けにくい点が特徴に挙げられます。
季節性に影響される商材といえば、アイスが代表的です。アイスは夏によく買われ、冬はあまり買われないという傾向が、ブランドに共通して起きやすい商材です。そのため、マーケティング戦略のヒントを引き出すにはこの季節性を踏まえた上で考慮することが必要です。コーヒードリンクは各ブランドでの戦略が明確に分かれながらも、アイスのような季節性の影響度は比較的小さく、全体として共通する傾向も見られることから、比較をする上ではよい商材であると考えています。
今回はQPRの「アイテムランキング」を使って、特に直近の1年間(2023年12月~2024年11月)で特に購入量の多かったメーカー・ブランドをいくつか選んで比較します。本来はコーヒードリンクもブラックや微糖、カフェオレ、カフェラテなど、様々な商品が並びますが、今回は「ブラックコーヒー」に絞って考えます。
QPRによる抽出の結果、購入金額ベースで大手4ブランドが上位に含まれることがわかりました(図表4)。
今回は購入金額のボリュームを比較指標に用いましたが、QPRのアイテムランキングではこれ以外でも購入率や購入回数などを使って比較することができます。
なお、QPRは同じ商品を上市するメーカーやブランドで比較することに適した指標を集計してアウトプットできるので、比較するための指標は多くあります。今回は「100人あたり購入金額」を用いて、時系列の比較を進めていきます。
年間の売上推移の比較
それでは早速コーヒーブランドを例に時系列データを比較してみましょう。まずは全体傾向を「比較基準」にしたときにどういった読み解きができるのか考えていきます。
全体傾向は市場にいる様々なプレイヤーが持つ特性が相互作用した結果、どのように市場が変化しているのかを示していると解釈することができます。つまり、全体傾向を比較基準にすることは「市場全体の傾向と自社の傾向とを比べ、ブランドのポジションを理解する」ことにつながります。
折れ線グラフと棒グラフを組み合わせた比較
複数のブランドの変化を比較するときに注意したいのは「比較の基準をどこに置くか」という観点にあります。たとえば単純に売上上位のブランドを比較基準にすると、他のブランドはすべてマイナスな傾向に見えてしまう可能性があります。良い比較基準を設ける必要があります。
様々な考え方があるものの、今回は4ブランドの「平均金額」を比較基準に設定しましょう。こうすることで、4ブランドそれぞれが持つ特徴が均され、ブランド共通の時系列変化として解釈することができそうです。この平均の推移をグラフにしたのが以下の図です(図表5)。
こうして見ると、4ブランドは平均して6~8月に購買金額のピークがあり、冬場になるタイミングで下降に転じる推移が確認できます。つまり、消費者は夏場によく購入し、冬場は購入しないということが、4ブランドにある程度共通する特徴だと言えるでしょう。
それでは、各ブランドの変化はどのようになっているでしょうか?次のグラフがブランドごとの変化をグラフにした結果です(図表6)。
ブランドA、ブランドBは、4ブランド平均よりも大きく、夏場によく売れ、冬場は下火となっている傾向が読み取れます。この傾向はある種の季節性かもしれません。
一方で、ブランドC、ブランドDは平均と比べても、どの時期でも大体同じボリュームで買われている傾向にあることもわかります。こうしてみるとブラックコーヒーに関しては、必ずしも共通の季節性やトレンドがあるとは言えないかもしれません。
このように、平均値は各ブランドの特徴的な変化を「均して」得られる数値ですから、比較の基準として定めることで、各ブランドの特徴を効果的につかむことができるようになります。