ブランド構築は「ファネル」から「ホイール」へ
──ここまで話を伺い、時代の変化に合わせて、自社のあり方や提供価値を定期的に見直すことの大切さがわかりました。時代の変化として感じられていることがあれば、教えてください。
ブランドが置かれている状況は急速に変化しており、「マーケティングファネル」から「ブランドホイール(連鎖反応型ブランド構築モデル)」へのパラダイムシフトが起きていると考えています。
この話の前提として、マーケティング活動の根幹には情報伝達技術があります。歴史を振り返ると、15世紀の印刷技術に始まり、音声(ラジオ)、映像(テレビ)、インターネット、モバイル、SNSと情報の伝わり方が大きく変わってきました。現在はAIの進化により、さらなる変化の中にいます。
Podcast番組「コテンラジオ(COTEN RADIO)」の深井龍之介氏が歴史的観点から指摘するように、情報伝達技術が進化するたびに「人間社会の思考OS」がアップデートされます。つまり、人々が物事を認識する仕組み自体が変化するのです。
変化として特に注目すべきは、情報発信の主導権がテレビや報道機関から、SNSによって個人レベルへと移行したことです。従来のマーケティングファネルでは、企業がブランドを構築し、マーケティングを通じて認知を獲得し、消費者に関心を持ってもらい、検討を経て購入に至るというプロセスでした。
しかし「ブランドのフライホイール」では、考え方が逆転します。まず企業が魅力的なプロダクトを生み出し、そのプロダクト自体が人を引き寄せ、製品を購入した顧客が「これはいい」と口コミで拡散し、それが企業への信頼を築きます。そして、信頼されることこそが企業の差別化要因となるのです。

ユニクロのショルダーバッグに見る「フライホイール」の実例
ユニクロの「ラウンドミニショルダーバッグ」を例に、説明しましょう。実はこの商品、最初に発売されたのは2020年でした。その時もある程度マーケティングはされていましたが、そこまで売れていたわけではありません。
転機は2022年に訪れました。イギリスの10代の若者が「こんなにたくさんのものが入る」という動画をTikTokに投稿したのです。わずか1分から1分半程度の動画でしたが、これが火が付き、いわゆる「バズ」が起こりました。
さらに購入した人々が、「これはすごい」と次々に発信することで連鎖反応が起き、世界的な大ヒット商品となりました。消費者が発信したものが宣伝となり、たくさんの人が買うようになり、またその人たちも発信する。この現象を通じて、ユニクロというブランドが「こんな良いものを作っている」という評価が消費者自身の言葉で広がり、それがブランドの差別化要因になっています。これこそが「フライホイール」のわかりやすい例です。