※本記事は、2025年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)112号に掲載したものです
【特集】いま選ばれる「ブランド」の作り方
─ ブランドに求められる「善」と「余白」/これからのブランディングに必要な6つの視点
─ クボタが推進するK-ESG経営とコミュニケーション戦略、「選ばれるブランド」になるために
─ 大躍進のアシックス スポーツから“日常”へ「ブランドの新たな柱」をどのように作り上げたのか?
─ 明確に言い切るブランドが選ばれる 属人性を恐れないGREEN SPOONの戦い方(本記事)
ビジョンファーストで事業を構想
──まずは「GREEN SPOON」がどのようなサービスなのか、紹介いただけますか。
冷凍したヘルシーミールをご自宅にお届けするサブスクリプション型のサービスです。ハンバーグや麻婆豆腐などの主菜に加え、スープ、サラダ、スムージーを取り揃えています。

最近ライス&パスタのカテゴリーを追加しました。定期便のプランは初回S BOX(8食)、M BOX(12食)、L BOX(20食)の3種から選んでいただけます。1食あたりの価格は700〜800円程度です。お届けの頻度も設定いただけます。
──御社で掲げているビジョン「自分を好きでいつづけられる人生を。」が策定された経緯と、込められた意図を教えてください。
新しい事業のローンチを考えていた際、頭の中にこのフレーズがふと浮かんだんです。会社や事業の存在意義は、人を喜ばせることや幸せにすることにあると私は考えています。「自分にとっての幸せは何か?」を問うた結果「自分を好きでいられること」に行き着いたため、それをビジョンに設定しました。人の自己肯定感を高められる事業は、運動や睡眠、アパレルなどの領域でも展開できます。ただ、私は自身が好きな領域でチャレンジしたいと考え、食品事業をスタートしました。

2012年にサイバーエージェントへ新卒入社。CyberZ、Ameba広告事業本部を経てAbemaTVスポーツ局を立ち上げる。2016年11月に独立し、2017年12月ONEBUYONEの代表取締役に就任。2019年5月にGreenspoonを創業し、現在に至る。
──御社では「製品開発と同じくらい体験設計を重視している」とうかがいました。実際、創業から3ヵ月間は製品開発そっちのけで、ブランドフィロソフィーの明確化に時間をかけたそうですね。
ブランドは、従業員の行動の積み重ねによって形作られていくものです。自社のビジョンを行動へと落とし込んでもらうためにはビジョンを言語化する必要があったため、オリジナルの「Brand Play book」を創業直後に制作しました。また新入社員や株主、お客様と対峙する際に、従業員がそれぞれの言葉でブランドを語ってしまうと一貫性が失われてしまいます。全員が共通言語を持つためにも、Brand Play bookは必要でした。社会や時代の変化に応じてブランドの形が変わることは自然な成り行きですから、創業時に制作したBrand Play bookは何度かの更新を経ています。現在のバージョンは4.0です。
突出した独自性が認知のきっかけに
──本号のテーマは「選ばれるブランドの作り方」です。生活者から選ばれるためには、まず想起集合に入る必要があります。ブランドの認知を高めるために、御社で工夫していることはありますか?
「異なること」を意識しています。ブランドは独自であってこそ世の中に残り続けると思うんです。他社と同じことをしても意味がありませんし、コモディティになっても仕方がない。極端かもしれませんが、皆が右に向かっていたら自社は左へ向かうようにしています。ただ、天邪鬼なブランドにしたいわけではまったくありません。右に向かう会社と同じゴールを目指しつつ、アプローチだけは独自路線を選ぶイメージです。
──独自路線の具体例を教えてください。
商品を包装しているパッケージのデザインです。野菜や果実を使った商品の場合、水を弾く葉物やオレンジの断面など、フレッシュな素材の写真を使ったパッケージデザインが一般的でしょう。しかしながらGREEN SPOONでは素材の写真を一切使わず、メニューと関連性のないイラストをパッケージにあしらっています。ほかにも、他社が代理店やASPカートを利用する中、自前のシステムを構築・運用するなど、常識やセオリーを疑う姿勢でやってきました。
──他のブランドが選ばない道を選び、独自性を磨き上げることで「おもしろいブランドがある」と知ってもらうきっかけになる、ということでしょうか?
世の中にモノや情報が溢れる今、違和感を出さなければ消費者からスルーされてしまいます。「好きの反対は無関心」という言葉のとおり、たとえネガティブであっても人の琴線に触れる何かがなければ気づいてもらえません。