データ活用は顧客にとっての付加価値を基準にせよ

今の企業はデータから顧客にとっての価値を生むにしても、購入、取引の履歴を使った値引きまでが一般的。ここで止まってしまっているケースが非常に多いです。しかし、実際に伸びているブランドでは、より上位の価値までもデータを使って提供しています。
たとえばSpotifyのパーソナライズされた体験にも見られるように、個人の嗜好といった情報を使ったり、たった今のムードを表す選択肢を用意したりすることで、ブランドとのつながりがより有意義に感じられる価値、顧客の自己実現に資するような価値を提供できているんです。
今は顧客のデータから企業が一方的に価値を得ている状態と言っても過言ではありません。これからは顧客データを顧客にとっての付加価値に変換し、提供することが前提になるでしょう。
店舗を持たずにモバイルファーストでビジネスを行うリテーラーなどでは特に、ブランドの取り組みに価値を強く感じるユーザーたちがコミュニティ、ファンダムを形成し、そのブランドのマーケティングを気にかけてくれるような状態を作っています。ロイヤルティ、顧客の囲い込みという概念そのものを再定義しなければならないと言える状況です。
まずは「1年の振り返り」から始めよう
━━どのような事例があるのかお教えください。
多くの企業で行うべきは「1年振り返りキャンペーン(YEAR-IN-REVIEW)」です。
日本でも「Spotifyまとめ」は良く知られていると思います。グローバルにおいてたとえば、大手ストリーミングサービスのPeacockでは、Brazeを活用することで、個々のユーザーのエンゲージメント、好きなジャンル、その年に視聴したコンテンツの量をハイライトするパーソナライズされたメールを送付。メールの開封者はメールを受信しなかった人に比べて30日間の解約率が20%減少、無料利用から有料利用へのアップグレード率が6%上昇しました。また、コスメ・美容系のリテーラーであるe.l.f. Beautyはロイヤルティプログラムに参加する530万人以上のメンバーへのアンケートデータを使って、ユーザーそれぞれの価値観に見合った情報を届けるための様々な企画を定常的に行っており、年次イベントでもコミュニティメンバーのレビューに基づくコンテンツの信頼性を活かしています。
2024年末には日本の@cosmeも新たにYEAR-IN-REVIEWを開始しました。Spotifyまとめからインスピレーションを受け、非エンジニアの若手スタッフがBrazeを使って取り組んだと聞いています。まさにテクノロジー×クリエイティビティによってブランド価値を届けたマーケティングの事例です。

━━最後に、昨今注目されているAIについて、クリエイティビティをどのように支え、また共存していくのか、パネロさんからの見解を教えてください。
生成AIは私自身も1年後にどうなっているかが読めないほど凄まじいスピードで進化をしています。ただ、どうなるにしてもBrazeとして重要だと意識しているのは、ブランドや広告代理店と共創をしていくことです。
従来ではブランドのロゴやカラー、想いまで示されたガイドラインをまず熟読し、それを基にキャンペーンを展開してきました。しかし今では、そのデータを丸ごとBrazeに連携し、AIモデルを教育し、必要なクリエイティブを作れるようになっていますし、それを届ける先としてどのファンダム、セグメントを選び、いかに良い戦略を作るのかということもAIを使ってできるようになってきています。
ブランドが提供する価値の核は以前と変わっていなくても、その受け手によって求められるメッセージや性格は異なるため、多様化が必要です。そのためのパーソナライゼーションの精度も、AIを使ったテストと最適化なら素早く上げていけるでしょう。また今回お話しした通り、マイクロモーメントを捉え、スピード感を持ってキャンペーンを行うことがこれからの勝ち筋です。そんな中、AIによってクリエイティブなことを一人ひとりが即実践できるようになり、個人が得られたアイデアをすぐに具現化できるようになるのは素晴らしいことだと思います。ブランドの皆さんには今後、“スーパーマンになったような気持ち”をぜひ実感していただきたいですね。