そのビジネスインパクトは?成果から見るサステナブル・マーケティング
ブランド価値に効く~「共感」がブランドの資産になる
サステナブル・マーケティングの成果としてまず挙げられるのは、ブランド価値への効果である。
経団連の企業調査(2025年)によれば、社会貢献活動に取り組む企業のうち、68.7%が「ブランディング戦略に効果があった」と回答している。この結果は、単なる好感度ではなく、企業の姿勢やストーリーが、生活者の選好軸そのものになりつつある兆しとも捉えるべきだろう。商品の「機能価値」と同様に「存在理由(パーパス)」が意味を持ち始めていると言えるかもしれない。

売上への波及──“意味あるプレミアム”を支えるサステナ行動
次に、売上・利益への直接的な貢献である。ニッセイ基礎研究所の調査(2025年)によれば、20代の28.3%が「環境に配慮した製品なら、価格が高くても購入する」と回答している。この数字は一見小さく見えるかもしれない。しかし、価格以外の要素──すなわち共感・納得・応援したいという気持ち──が、購買の意思決定を左右し始めていることを示す兆しとも考えられる。

社内への波及──エンゲージメントは「意味」から生まれる
最後に、見過ごされがちだが重要な視点が「従業員エンゲージメント」である。経団連(2024年)によると、社会貢献活動への人事評価での加点を実施している企業はわずか5.2%に過ぎない。しかしその一方で、「表彰制度を設けている企業」は30.1%に達しており、少しずつ「制度」への取り込みが進んでいることも読み取れる。

注目すべきは、特に20~30代の若手社員の間で「働く意味」や「社会貢献への実感」を重視する傾向が強まっている点であろう。ある研究では、企業による社会貢献への取り組みが、従業員の組織ロイヤリティにポジティブな影響を示しているという。
たとえ報酬に直結しない取り組みでも、「自社が何を目指しているか」に納得できるか否かは、日々の業務へのモチベーションや組織へのロイヤリティに深く関係する。マーケティング部門での共創戦略の実装は、顧客や市場などの外向けの施策であると同時に、内向けのインターナルな組織強化にもつながるというわけだ。
このように、ブランド価値・売上・人材エンゲージメントという三方向の成果が、共創的アプローチによって一体化している構造が見えてくる。これら3つの成果は、「共創」という視点を通じて相互に強化される関係にある。ただ環境にやさしいだけではなく、「社会や生活者とともに価値を創る」視点こそが、これからのマーケティングの成否を分ける鍵となると言えるのではないだろうか。
これからのマーケティング──「誰に売るか」から「誰と創るか」へ
こうした価値創出の潮流を後押しする動きがもう1つある。2024年に改訂された「マーケティング定義の刷新」が意味する変化について、データを交えて読み解いてみたい。
ブランド価値・売上・エンゲージメントの三位一体での成果が見え始めた今、マーケティングそのものの骨格である「定義」もまた、大きな転機を迎えていると言えるだろう。2024年1月、日本マーケティング協会は、実に34年ぶりにマーケティング定義を改訂した。新たな定義はこうである。
マーケティングとは、顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
注目すべきは、「顧客と社会」が並列に扱われている点である。従来のマーケティングが「(市場の)誰に売るか」に重きを置いていたとすれば、ここでは「(社会の)誰と創るか」へと重心が移っていると見ることもできるだろう。
「拡大の論理」から「意味のある成長」へ
この背景には、日本社会を取り巻く構造変化がある。1989年の前回改訂時は、バブル期の大量生産・大量消費を前提とした「市場拡大の論理」が支配的だった。
しかし、2024年現在、国内市場は人口減少と成熟化により、マーケティングが長く前提としていた「成長=拡大」という前提のみならず、むしろ「どのように成長するのか」が問われている。言わば、これまで培ってきたマーケティングの知恵に、「社会との関係性」「共創する構想力」といった新たな視点を加える姿勢が求められているとも言えるのではないだろうか。