ストーリーテリング戦略が米国で成功した日本メーカーとは?
米国市場にてストーリーテリング戦略で注目を集めた商品・ブランドとして例に挙げられるのがUCCの缶コーヒー。米国では缶コーヒーの文化はなく、コーヒーといえばドライブスルーやコーヒースタンドで紙コップに入ったドリップコーヒーが一般的です(米国ドラマでよく見るアレです)。しかし同ブランドは北米でも人気のアニメ「エヴァンゲリオン」で登場し、コラボレーションを通じた発信により、「日本的でちょっとクール」な存在として若年層を中心に受け入れられています。缶コーヒー文化は徐々に広まり、米国のブランドもスーパーで発売するようになっているのです。これらは北米で人気の掲示板Redditでの投稿をはじめ、様々なUGC(User Generated Content)を確認できます。
また、森永製菓の「ハイチュー(Hi-Chew)」も、独特の食感と果実身のある味(オーセンティシティ)が評価され人気のお菓子として定着しています。商品の技術力だけでなく、ストーリーテリングでも製品のコンセプトに合わせた「エスケーピズム」な訴求をしています。
たとえば、動画広告では若い消費者に親近感を抱かせるために、空を舞う巨大なフルーツ、蝶のように羽ばたくハイチュー、カラフルな床を飛び跳ねる人、そして友達とセルフィーをする。ハイチューの魔法のような世界観に視聴者を誘っています。
日本でも、極端かつユーモラスな表現を通じて製品の性能を伝える広告が存在しました。サンスター文具から発売された「アーム筆入」は「象が踏んでも壊れない」というキャッチコピーで、テレビCMでも実際に象に踏ませることで頑丈さをわかりやすく伝えていました。米国市場にでは、むしろこの“わかりやすさ”こそが武器になります。
消費者は、製品の性能が生活の中でどのように役立つのかを、理屈よりも「見て納得する」ことで信頼を寄せます。たとえば、スマホをミキサーで粉砕して見せるBlendtecのプロモーションが話題になったように、オーバーにも見える表現が「これなら安心」と思わせる説得力になるのです。日本製品の持つ高いスペックを、こうした“視覚的な説得力”と組み合わせて伝えられれば、より広い層への共感を得られるはずです。
「日本っぽくてクール」のブランド訴求が鍵
米国市場を取り巻く環境は、トランプ政権の再登場によって大きく変わろうとしています。輸入関税の強化をはじめとする自国第一主義の動きは、日本企業にとって明確な販売障壁であり、「安くて良いもの」だけでは選ばれない時代が訪れています。
しかし、そうした中でも希望が持てるのは、日本製品がこれまで築いてきた“信頼”と“品質”というブランド資産の存在です。自動車や電子機器、コンテンツに続き食品や和文化など日本ブランドは間違いなく北米の生活に浸透しています。多少価格が高くても「やっぱり日本製が安心」「このブランドは間違いない」と思ってもらえる力は、確かに存在しています。
そこに「日本っぽくてクール」という感情を芽生えさせるストーリーテリングを行うことで、価格が多少高くなっても、「どうせ買うなら日本製(日本ブランド)を選びたい」「ちょっと高くても安心できる」と日本ブランドを選んでもらえるのではないでしょうか。スペックではなく“ストーリー”で伝えること。米国の消費者が共感しやすいのは、数字や機能の羅列ではなく、生活者視点で描かれた物語や体験なのです。
次回は、関税政策をマーケティング視点で乗り越えるためのローカライズ戦略の実践例を、コラボレーションや商品設計、伝え方の工夫といった視点から深掘りします。