売上・利益だけでは測れない~マーケティングが生みだす「社会リターン」の可視化
「トリプルボトムライン(Triple Bottom Line)」という言葉が、サステナビリティ経営のキーワードとして注目されている。企業の成果を「経済(利益)」「社会(人)」「環境」の3つの視点で評価する考え方であり、従来の財務指標だけでは捉えきれない企業の持続可能性を包括的に判断する枠組みである。
言い換えれば、企業が中長期にわたって信頼を獲得していくための基本的な視点の1つと言えるだろう。
トリプルボトムラインで考える、サステナビリティ経営の成果(一例)
経済(利益):価格プレミアムによる粗利向上、材料費の削減
社会面:顧客満足度の上昇や従業員の働きがい向上、地域社会への還元
環境面:エネルギー使用量の削減やCO2排出削減
これらの成果は、すぐに損益計算書に反映されるものばかりではない。しかし、中長期的にはブランドへの信頼や、サプライチェーン全体にわたる好循環の起点となり、企業の経営基盤を支える重要な要素となる。従来の費用対効果やROIといった財務指標だけでは見落とされがちだった価値の「広がり」を捉える手がかりにもなるだろう。
たとえば表1のように、経済・社会・環境それぞれについて「企業が直接的(短期的)に得るリターン」と「社会や地域への波及効果(長期的・間接的に企業が得るリターン)」の両面で価値を可視化することで、日々のマーケティング施策の意味がより立体的に浮かび上がる。

日用品メーカーの商品開発を例にとると、詰め替え容器の導入によって企業の容器コストが下がる一方で、地域のごみ削減にも貢献するなど、取り組みには生活者や社会にとって意味のある「副次的な価値」が多く含まれている。サステナブル・マーケティングとは、持続可能性を意識した新たな商品開発やマーケティングの仕掛けを考えるだけでなく、これまでの施策に新たな意味を与え直すことでもあるのだ。
とはいえ、すべての副次的な効果を定量的に評価するのは容易ではない。だからこそ、まず重要なのは「自社のマーケティング活動には、すでに社会や地域に対して何らかのインパクトがある」と認識することではないか。
すべてを一度に進める必要はなく、まずは、目の前の施策を「経済・社会・環境の3つの視点でどう捉え直せるか」という観点から見直してみる。現場発のマーケティング活動の中にある社会的な価値をすくい取り、それをどう設計し、実装していくか。その積み重ねこそが、サステナブル・マーケティングの実践を支える力になると思われる。