GoogleニュースやGmailを生んだ「20%ルール」
岩村:イノベーションを生む組織マネジメントにおいて、大事にしているのは「サイコロジカルセーフティ=心理的安全性」の概念です。
私は、テクノロジーで女性活躍の支援を目指す活動を10年以上前にスタートさせました。その活動の一環で、女性活躍やダイバーシティ推進のための重要な要素として「心理的安全性」を基盤とするカルチャー醸成の啓蒙もしており、「心理的安全性」という言葉を日本で広めたのは私だと自負しています。
心理的安全性と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、要は「わからないことを、わからないと言える」「安心して質問ができる」あるいは「失敗してもいいからチャレンジをする」といった環境を整えるのです。こうした環境が、イノベーションを生み出すために重要と感じています。
田中:少し関連した内容で、GeminiにまとめてもらったGoogle分析レポートの中に「20%ルール」もありました。これは、勤務時間20%を自分の興味のあることに使っていいというルールです。これもGoogleさんのイノベーティブの源泉になっているのでしょうか?

岩村:そうですね、20%ルールで生まれた製品は多いんですよ。GoogleニュースやGmailも、実は20%ルールから生まれてきた製品です。ただ、20%ルールは時間的に自分の時間を自由に使えるというだけでなく、内発的な動機づけを高める意義も大きいです。
田中:私がGoogleを外から見ていて感心するのは、心理的安全性もそうなのですが、いわば社会科学的な研究を実践されて、そこでのファインディングを実務に活かしている点です。
岩村:そうですね。パフォーマンスの良いチームとそうでないチームの差はどこにあるのか、など分析やデータから学ぶ姿勢があります。ちなみに、以前行った「プロジェクトオキシジェン」という研究でも、やはり心理的安全性が最も欠かせないという結果が出ました。
ルールをもとに、カルチャーを醸成するポイント
田中:他社の場合ですと、ミッションやバリューをカードに書いて配るというような手法があるわけですが、Googleさんにはそのようなことはないだろうと思います(笑)。よりイノベーティブなカルチャーを作り出すための「コツ」は何かあるのでしょうか?
岩村:そうですね。詳しくは私の著書『ワーク・スマート』にまとめていますが、あえて挙げると2つになるかと思います。1つは社内のコミュニケーションです。ミッションやビジョンについても、やはりずっと言い続けるしかないのかもしれません。全社集会や現場で繰り返して伝えることです。実際に現場の意思決定でミッションやビジョンが使われようになることが大切だと思います。
2つ目に、Googleでは、シリコンバレーで生まれた組織と個人の目標を連動させ、戦略の一貫性を目指す「OKR(Objective Key Result)」という仕組みを活用しています。自分の仕事と会社のミッションやビジョン、戦略との繋がりが実感できることは非常に重要なのです。またOKRで言う「ストレッチゴール」の設定が、リスクを取るカルチャー・失敗を歓迎するカルチャーに繋がっていると思います。
OKR(Objective and Key Results):目標設定と管理のためのフレームワーク。組織やチーム、個人が達成すべき目標(Objective)と、その達成度を測るための主要な成果指標(Key Results)を明確にし、組織全体のパフォーマンスを向上させることを目指す。「何を達成したいか(Objective)」と「どうやって達成したかを測るか(Key Results)」をセットで考えることで、成長を促す仕組み。