いざ世界大会へ!課題掲出から24時間でプレゼン資料を提出
カンヌで開催された世界本戦のテーマは「卵巣がんという見過ごされがちな病を、誰も無視できない社会の関心事へ変えよ」というものでした。クライアントからブリーフを受けてから、約24時間という限られた時間の中でテーマを解決するアイデアを考え、10枚のプレゼン用スライドを提出する必要があります。
私たちはまず、「なぜ卵巣がんは“見過ごされがち”なのか」から考え始めました。卵巣がん当事者の多くが50代以上の女性であるという事実が、若者や男性の関心を遠ざけ、支援の輪を狭めているのではないか――この関心の壁を越えるため、私たちは誰もが誰かを想う瞬間である「ギフト」に着目しました。
そこで提案した企画は、卵巣がんのシンボルであるティール色のリボンを、ギフトラッピングの選択肢に加えるというもの。「大切な人を守りたい」というギフトシーンならではの心情を、病への認知と支援に繋げる狙いです。リボン1つで始められる手軽さと、どんな企業とも組める拡張性を強みに、24時間でプランを練り上げました。

しかし、結果は敗北……! ゴールドを獲得したのは「卵巣がんの罹患率と同じ割合で、タンポンの色をティールカラーに変える」というアイデアでした。
病の認知獲得に振り切り、拡張性や実現可能性といった「プランの正しさ」に逃げない、見た瞬間に伝わるアイデアの力。世界で勝つために何が不可欠なのかを、痛感しました。

「左脳×左脳」ペアが編み出した、24時間で戦い抜くための武器
本戦では悔しい結果に終わりましたが、事前の試行錯誤で今後に繋がる多くのことを学ぶことができました。
1つは、アイデア出しの「フォーマット化」です。過去の優れた広告事例を2人で分析・言語化し、アイデアに至る思考プロセスをフレームワークとしてストック。アイデアの打率を高めることで、ブレインストーミングを効率化し、どんなお題にも対応できる思考の型を設計しました。
そしてもう1つは、AIを用いた独自のワークフローです。先ほど定義した思考フレームを学習させた「壁打ち相手AI」のプロトタイプ制作や、各種AIサービスを組み合わせたヤングカンヌ専用のビジュアル制作フローを確立。アイデア創出から画像生成まで、制作プロセスの各所にAIを組み込むことで、時間を短縮しました。
アイデアをロジックで分解し、AIで加速させる――この「ロジック×テクノロジー」という武器があったからこそ、大きなトラブルもなく、世界の舞台を駆け抜けることができたのだと思います。
今回のチャレンジで得られたもの、クリエイティブを「センス」で片づけない
世界大会での受賞は叶いませんでしたが、「ロジックでアイデアを突き詰める“左脳×右脳”のペアでも、世界と互角に戦える」という手応えは、大きな自信となりました。また、本戦前の試行錯誤の積み重ねは、企業のブランディングや事業支援といった日頃の業務にも間違いなく活きています。
クリエイティブは「センス」という一言で片づけられがちです。しかし私たちは、アイデアとは決して魔法ではなく、再現性を高められる「技術」であると考えています。私たちが挑戦したメディア部門の本質は、マーケティングそのものです。「社会や人の認識をどう変えるか」という正解のない問いに対し、社会的なインサイト(Why)を捉え、解決策となるアイデア(What)を定義し、実現可能な計画(How)に落とし込む。課題解決のアプローチ力が光る部門です。
「良いアイデア」とは何か? この問いと向き合い、自問自答を繰り返す思考のプロセスそのものが自分だけの強力な武器になるはずです。ぜひ、この刺激的な舞台に挑戦してみて下さい!