「変な人」はインサイト発見のヒント
米田:中川さんのインサイト発見のためのコツを教えてください。
中川:私は習慣的に街で「変な人」を探しています。たとえば、自転車に乗りながら大声で歌っている人、街中で変なもの持っている・運んでいる人、電車でちょっと違和感がある服装や格好をしている人なんかを見かけると、興味津々でつい観察してしまいます。というのは、変な人って、未来を先取りしている可能性がある、って私は思っているからなんです。
たとえば、一人焼肉や一人カラオケをしている人も一昔前だとちょっと「変わったヤツ」でしたが、そんなの、いまや普通ですよね。つまり昔の「変な人」は今を先取りしていたってことなんです。
2018年頃、スニーカー通勤促進プロジェクトに携わっていました。スーツや制服にスニーカーというのは、今やフォーマルな職種の方も取り入れるようになっていますけど、当初はかなり違和感がありました。当時、どうやって会社員の運動不足を解消できるかな、と考えている中、「アーシング」という言葉を知りました。大地に裸足で触れることで体調を整える、という考え方です。その直後、登山に行った際に裸足で山を登っている「変な人」に遭遇しました。話を聞くと「気持ち良いからやっているんです」と。また、街ではスーツにサンダル姿で出社する「変な人」を見かけました。こうした「変な人たち」をつないでいくと、「私たちは縛られたものから解放されたいのでは」と仮説が浮かび上がる。そこで、会社員の運動不足解消のために「スニーカー通勤」を促進しようとなったわけです。「変な人」は未来人だと私は信じています。
米田:なるほど。違和感を「発見!」と思えるかどうかが肝心ですね。

インサイトの種になる「違和感」、それを捉えるテクニックとは?
米田:吉岡さんは言葉を手がかりにインサイトを発見することが多いそうですね。
吉岡:はい。言葉に向き合うとき、私も「違和感」を捉えることを大事にしています。理論的にはこうだけれど感覚的には違う、そのギャップにこそ発見があります。たとえばSNSの投稿で「なぜこの人はこういう言い方をするのだろう」と気になったら、必ず深掘りします。

米田:私も、分析をする際、ギャップに注目するのは非常に重要だと思っています。調査やA/Bテストで予想と異なる結果が出た時や、スコア間で説明のつかない不一致を見つけた時、そのギャップの理由を掘り下げると大きな発見につながります。
吉岡:私は、ギャップや違和感を深く掘り下げるとき、過去から現在への流れを振り返ってみることもあります。たとえば「ハイクラス」という言葉が古く聞こえ始めた時に感じた違和感は、どういう時代や社会ステータスの変化が背景にあるのかな、とか。「ハイクラス」が広まる前に近しい使い方をされていた「エリート」という言葉は、今では完全に違和感あるけれど、「エリート」が普通に通用する言葉だった時と違和感ある今では何が違うのかな、じゃあ「次はどんな概念が来ることでどんな言葉が古くなるのかな」と考える。過去・現在をつなぐ視点で違和感を紐解くと、未来を予測するヒントが見えてくる感じです。
同じ言葉でも、時代によってニュアンスが変化する点に注目することもあります。「オタク」はかつてネガティブな響きをもっていましたが、今では日常的に使われています。「社長」は以前だとキャリアの最終ゴールでしたが、ベンチャー企業の増加で、今ではスタート地点のような捉え方もできるようになりました。言葉の意味の変化に注目することで、その背景にある価値観やインサイトを議論しやすくなります。
米田:さすがインサイトモンスターですね。勉強になります。
