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インサイト活用のプロ・米田氏と紐解く、実践的インサイト活用法

「違和感」こそインサイト発見の鍵。博報堂のクリエイティブディレクターが明かす視点とテクニック

習慣作りにインサイトをどう活かす?

米田:以前中川さんとMarkeZineの記事で対談させていただいた時は「習慣付け」というテーマだったので、ぜひ今日も「習慣付け」についてお話しできればと思うのですが。

中川:さっき話した、一人焼肉や一人カラオケ、スニーカー通勤とかが、「変な人の突飛な行動」から「普通の習慣」に変わっていく、多くの人の習慣として受け入れられるよう何ができるか、ですよね。

米田:私がP&G時代に学んだ素晴らしい事例があります。インドでは髭は男性の威厳の象徴で、髭を剃ることは恥ずかしいことのように捉えられていて、髭剃りが売れませんでした。しかし海外メディアの影響もあって「髭を剃った方がカッコいいのにな…(でも世間体を考えると剃れないなぁ)」と思う人も増えていました。そこで、髭を剃ってカッコよくなって女性にモテたいか、長い髭をたくわえて「威厳ある人」と思われたいか、あなたはどっち?という構図を「Shave or Not」というキャンペーンで展開しました。結果、多くの若者が「髭を剃る」を選びはじめ、インドでも髭剃りが習慣化し始めました。価値観や宗教観と結びついた慣習でも、前提を揺さぶることで変革できることを学びました。

中川:思い込みや固定観念をうまく壊した事例ですね。若者にとって理想像のインサイトが、「偉い人」よりも「モテる男」へとシフトしたと言えますね。

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吉岡:私が最近気づいたのは、水筒を持ち歩く人が増えていますが、「水筒をバッグの中に入れる」など行為の前提を変えればもっと広まるのでは、ということです。私自身、これまでマイボトルを持ち歩いていなかったのは、単にバッグに入らなかったからなのですが、たまたま登山用のカラビナを使ってショルダーバッグに水筒をつけて持ち歩いたところ、周りの人たちから、「それ良いね」と何度も言われました。ちょっとした工夫で物理的な制約を突破し、それによって習慣を変えられる例だと思いました。

1つの事象の「深堀り」よりも、散らばる情報を「手書き」でメモする

米田:発見したインサイトを日々の仕事に活かすために、気をつけていることはありますか。

中川:私は日常で見つけた事例や記事に見出しを付けて、すべてメモツールにストックしています。無理に仕事に結びつけようとするのではなく、仕事をいただいた時に自然と結びついていく

 最近感じるのは、手書きの重要性です。書きながら考えると頭の中の情報が出やすくなります。限界まで書き続けることで、脳が蓄積したものをつなげようと働く気がしますね。インプットはAIや本などから様々にできますが、それをつなげるには口を使って「喋る」、手を使って「書く」といった身体性が不可欠だと感じます。

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吉岡:私も同じです。整理されていないときほどノートに手書きします。後で振り返ると新しい発見があるからです。また、生活者の現象から得たインサイトばかりにとらわれると、行き詰まることもあります。そんなときは企業サイトや異業種の事例に触れて、別の視点から捉え直すようにしています。

中川:私個人としては、「生活者発想」と「メディア発想」というやや異なる視点の両方を大事にしています。生活者発想はストラテジックプランナー的に人々の行動や感覚から捉える視点です。一方でメディア発想は、記事の論調を分析して世の中の空気を読み解くPR的な視点です。「異なる視点」だからこそどちらも重要で、それらを結びつけることで新しい切り口がみえることがあります。

 「ビアリー」を手がけたときも、「アルコール摂取を減らすよう強制されての消極的行動」ではなく「楽しんで前向きに選ぶ積極的行動」という視点を意識していました。その後、メディアを調べていくと、海外では若者を中心に「ソバーキュリアス(Sober Curious)」という“あえて飲まない”ムーブメントが広がっていると知り、日本でも広がる可能性を感じて企画に取り入れました。こうした「人」と「メディア」の両面から共通項を探すことが重要だと思っています。

米田:インサイトを見つけるには、大きな視点で世界の動きを見ることと同時に、身近なコミュニティでの実際の人々の行動や価値観の変化を追うことが両方重要ですね。

中川:そうですね。よくインサイトとは「深層心理のことだから深掘りを」と言われますが、私は1つの事象を「深掘り」するというよりも、世の中に散らばる様々な現象を、違和感のある変な事象も含めて色々集めておいて、何らかの関連性を見つけて“星座のようにつないでみる”ことで、今まで気づいていなかった本質が見えたり、新しい解決策が浮かんでくると思っています。

米田:まさにConnecting the Dotsですね!今日はお二人とお話しできて本当に楽しかったです。ありがとうございました。

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米田からの「インサイト活用」TIPS:「違和感」「違い」を積極的に受け入れる

  • 「変だ」と感じるセンサーを大切に。自分の価値観に合わない時に感じる「違和感」。変な人、変な考え方、変な行動、変なxxxに遭遇したら、避けるのではなく、敢えて好奇心をもって知ろうとすることで、今の自分には見えていない新しい世界が見えてくる。
  • 「違い」に興味をもってみる。時代や世代による違い、立場による違い、価値観による違い…。なぜ違うのか、背景要因を考えてみる。違うとはいえ、共通点はないのか。違いを説明することで、新しい仮説が見えてくる。
  • 辻褄が合わないことに食らいついてみる。説明がつかない・納得がいかないということは、自分の今のロジックではカバーできない何か「新たな仮説」が潜んでいる可能性を示唆している。

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この記事の著者

こまき あゆこ(コマキ アユコ)

ライター。AI開発を行う会社のbizdevとして働きながら、ライティング業・大学院で研究活動をしています。
連絡先: komakiayuko@gmail.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/09/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49663

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