大手企業のコア事業こそ、カテゴリー戦略が重要
田岡:今日お聞きしたかったカテゴリー戦略の話題にも触れたいと思います。関口さんは、パナソニックのコア事業であるPC部門でもBtoBマーケティングとしてカテゴリー戦略を推進されていましたよね。最近、「新規事業」だけでなく「コア事業」でもカテゴリー戦略を考えたいというご相談をよく受けるのですが、関口さんはどのような考えから、カテゴリー戦略を推進されているのでしょうか?

関口:カテゴリー戦略は、大手企業のコア事業においても、新規事業と同等か、それ以上に重要だと思います。コア事業の強みの多くはコモディティ化していくからです。競合の追随を振り切ってポジションを守るためには、顧客を理解した上で、ニッチな便益を突き詰める必要があります。そのために、新しいカテゴリーの名称や定義が非常に重要です。
パナソニックのノートPCには、レッツノートとTOUGHBOOKというそれぞれのカテゴリーでトップシェアの主力製品があります。これらはすべてのタイプのPCを含む「PC全体のカテゴリー」でのNo.1を狙っているわけではありません。TOUGHBOOKは「堅牢性の高い」PC、レッツノートは「持ち運びに特化した」PCとして、それぞれのカテゴリーにおける1位であり続けるという戦略をとっています。
田岡:素晴らしいカテゴリー創造の事例ですね。おっしゃる通り、私も大手企業のコア事業では、カテゴリー戦略が重要だと感じます。いかに成熟した市場で事業成長をし続けるか?という大きなテーマに対して、カテゴリー戦略が突破口になり得るからです。
事業が大きくなり成長が鈍化する時こそ、関口さんのおっしゃる「顧客の隠れた前提」=顧客の潜在課題を捉えることが求められます。顧客の潜在課題を解決する新たな独自価値を作り、カテゴリーを拡張していくことで、新たな成長の機会を得ることができるのです。
当たり前ですが、カテゴリー自体が広がらなければ、カテゴリーNo.1ブランドも成長できません。したがって、時代変化の中で新たな顧客課題を捉え、カテゴリーの成長ドライバーを得ることは、大手企業のコア事業にこそ求められるはずです。
一度確立した事業サイクルも「顧客」と離れていないか、疑い続けよ
田岡:先ほども述べたとおり、多くの企業で、持続的に成長し続けることが重要な経営課題となっています。マーケターとしての視点から、大企業がサステナブルに成長を続けるために組織として必要な姿勢についてお聞かせください。
関口:常に顧客を見て、一度確立した事業サイクルを疑い続けることです。
事業を継続すればするほど、マーケティングのプロセスが確立されていきます。決まったプロセスのおかげで、事業規模が大きくなっても破綻なく事業を運営できる。そういった意味で、大企業にとってプロセスの固定化自体は悪いことではありません。
一方で、いつの間にかプロセスを回すこと自体が目的となり、「顧客を見ないマーケティング」になってしまうことにも注意が必要です。口では「顧客起点」と言いながらも、顧客にとって自社の商品でなければならない必然性を見失ってしまうことは往々にしてあると感じます。

田岡:事業サイクル自体の目的化は、大企業が陥りがちな問題ですよね。パナソニック コネクトではそれをどう回避されているのでしょうか。
関口:会社全体で顧客を起点に連携する体制と文化を築けていることが大きいと思います。私のような中間管理職がハブとなり、経営層から現場までが顧客のほうを向いて業務に取り組めるようにコミュニケーションをとっています。
私が入社した2018年より少し前から、パナソニック コネクトはカルチャーの変革を推し進めてきました。現在、これがかなり浸透してきたように感じます。「3階建てのビジネス変革」の「1階」、つまりすべての変革の土台となるのがカルチャー・マインドです。組織全体に流れる文化・風土の醸成がなければ、どんな戦略があっても変革は起きません。
顧客にとって自分たちが何者なのか、自分たちの勝ちパターンは何なのか。そうしたことを、経営層から開発現場まで、全社的に連携して考えていくことが重要だと感じています。
田岡: 多くの企業では、顧客理解といっても表面的なヒアリングで終わってしまいがちです。しかし、今回の関口さんのお話から、顧客自身も気づいていない「隠れた前提」を掘り起こし、新たな価値を提供すること、カテゴリーを創造し広げていくことこそ、BtoBマーケティング成功の鍵であることがわかりました。
顧客視点のマーケティングを企業全体のカルチャーとして推進し、多職種を巻き込んで組織として顧客理解を深めていくパナソニック コネクトの取り組みは、多くの企業にとって示唆に富む事例なのではないかと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました!