SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZine Day 2025 Autumn(AD)

AIはリサーチ業務をどう変革するか?仮説構築の新プロセスで発掘する、「育休パパ」のインサイト

 AIの進化は、リサーチ業務をどう変革するのか。単なる効率化だけでなく、これまで捉えきれなかった生活者の深層心理をいかにしてあぶり出すのか。MarkeZine Day 2025 Autumnに登壇した楽天インサイトの伊藤暖氏は、その1つの答えを提示した。同氏は、近年注目される「育休パパ」を対象に、同社独自のAIソリューションを駆使した実証調査を実施。本セッションでは、AIがいかにリサーチの「速度」と「深度」を両立させ、商品開発の精度を高めるのか、その具体的なプロセスと、そこから導かれたインサイトが明かされた。

楽天グループが推進するAI活用戦略

 生成AIツールの登場により、あらゆる業務領域でAI活用の可能性は広がった。日本企業においても、AIをいかに業務に取り入れ、競争力を高めていくかが喫緊の課題となっている。そうした中、AI活用を推進する代表的な企業といえば、楽天グループだ。

 同グループは、「マーケティング効率」「オペレーション効率」「クライアント効率」の3つを20%向上させる「トリプル20」という目標を掲げ、AI活用を推進している。

 楽天インサイトも、この戦略の一翼を担う。同社は「画像・動画のAI解析」「AIチャットインタビュー」「AIによる分析結果の自動レポーティング」という、3つのAIソリューションを展開している。

 「AIに強い楽天グループの中にあるリサーチ会社として、リサーチ×AI活用の業界第一人者でありたい」。そう語るのは、AIソリューションズ部にて、新たなリサーチ手法の開発を主導する伊藤暖氏だ。

楽天インサイト株式会社 AIソリューションズ部 部長 伊藤暖氏
楽天インサイト株式会社 AIソリューションズ部 部長 伊藤暖氏
(クリックすると拡大します)

 今回、伊藤氏がリサーチ対象としたのは「育休パパ」という新しい消費者セグメントだ。厚生労働省が令和6年に実施した調査では、男性の育児休暇取得率は前年比10.4%増の40.5%に達し、18〜25歳男性の取得意向は84.3%と、この市場は急速に拡大している

 しかし、楽天インサイトの自社調査による「育休パパ」の実態を見ると「取得して良かった」と88.0%が感じる一方で、79.3%が「家事・育児を大変だと思っている」。また大変だと思う理由についても聞いたところ、「自分の時間や休息が取れない(55.8%)」「仕事と家事・育児の両立が難しい(50.7%)」という声も多い。

 この矛盾する感情の背景には、どんなインサイトが隠れているのか。

画像収集×AI解析:画像から「商品名」を含むリアルな実態を把握

 さらに同社の調査では、自分の自由時間に欠かせない「お気に入りのモノ・コト」を、育児が終わった後も引き続き使いたいといった回答が95.9%だったという。この驚きの結果は、「育児期間は、高LTV関係を築く重要なタイミングである」ことを示唆していると考えられる

 これらの結果から、伊藤氏が着目したのは「育休パパ」の「自由時間・息抜き時間に欠かせないモノ・コト」だった。この時間の過ごし方を深掘りすることで、新たな商品開発やマーケティング戦略のヒントが得られるのではないか──。そんな仮説を立て、「画像や動画のAI解析」と「AIチャットインタビュー」という2つのAIソリューションを用いて深掘りを目的とした実態調査を実施した。

画像を説明するテキストなくても可
2つのAIソリューション「画像収集×AI解析」「AIチャットインタビュー」
(クリックすると拡大します)

 「画像や動画のAI解析」では、「育休パパ」経験者である281名のサンプルから「息抜き時間に欠かせないモノ・コト」に関する画像とテキストを収集し、AIで解析した。従来であれば、画像データを目視で確認する必要があり、工数がかかる上に扱いが難しいという課題があったが、AIによりデータの定量化や量的分析が可能になった。

 たとえば、ある回答者は「好きなドラマ、バラエティー、アニメなどを録りためて、疲れた状態でぼーっと見る」とテキストで回答した。一方、提供された画像をAIが解析すると、テレビ、アニメのDVDケース、DVDディスク、リモコン、おもちゃ、子どもの絵、本、お菓子の包装を判別した。

画像を説明するテキストなくても可
(クリックすると拡大します)

 また、「サケ」というテキストとともに提供された画像から、ワインボトルやワイングラスを判別した。AI画像解析を使えば、画像内のワインの銘柄も特定できるため、実態把握の精度を格段に向上できる。

 さらに、画像からAIが判別した情報をテキストデータに変換することで、量的な評価も可能になる。今回の調査では、「デジタル機器・ガジェット(37.7%)」「本・マンガ・映像・ゲーム(33.8%)」「飲食・食品(26.0%)」といったカテゴリー別の割合も算出できた。

画像を説明するテキストなくても可
(クリックすると拡大します)

 重要なのは、これらのテキストデータは選択肢を用いたアンケートではなく、画像から自動的に抽出されている点だ。選択肢を用いた定量調査では、「主観が入る」「恣意的になる」といった懸念があるが、AI解析で自動的にデータを取得する手法は、そうした実態調査の妨げになる要素を取り除ける。

AIチャットインタビュー:短時間で数千人規模のデータを収集

 「AIチャットインタビュー」は、AIがモデレーターを担い、チャット形式でリアルタイムにインタビューを行うシステムだ。時間・場所の制限がないため、短時間で数百人〜数千人規模の定性データを収集できる。楽天インサイトの「AIチャットインタビュー」には、以下の3つの特徴がある。

1. 業界のリーダーとしての実績:2024年10月末にいち早くローンチされたサービスで、楽天グループの約220万人の高品質なパネルを有する

2. リサーチャー×エンジニアのアジャイル開発:定性調査に強いリサーチャーと楽天インサイトのエンジニアが連携し、ユーザーニーズに応じたスピーディな機能改善を行っている

3. 独自のハルシネーション防止策:インタビュー終盤に回答内容をサマリーとしてまとめ、ユーザーが最終確認する独自プロセスを搭載することで、AIのハルシネーションを防止する(特許出願中)

 「AIチャットインタビュー」では、「育休パパ」経験者である308名のサンプルから、1人につき平均68回のラリーでインタビューを実施した。注目すべきは、「対人のインタビューでは得られにくい率直な表現が見られたこと」だと伊藤氏は語る。

画像を説明するテキストなくても可
AIチャットインタビューのイメージ
(クリックすると拡大します)

「たとえば、『妻にバレないよう有給を使ってギャンブルをすること』『クズな人間だなと思う。妻にバレたら離婚になるし』といった、リアルな意識と本音が散見されました。AIだからこそ引き出せる意見があるのです」(伊藤氏)

息抜き時間の過ごし方10区分と4象限

 収集した膨大な定性意見は、AIが類型化と量的評価を行う。今回の調査では、息抜き時間の過ごし方を以下の10区分に類型化した。

画像を説明するテキストなくても可
息抜き時間の過ごし方を10区分に類型化
(クリックすると拡大します)

 さらに、これらの10区分を「自分のため/家族のため」と「自宅/自宅外」の軸で4象限にマッピングした。

画像を説明するテキストなくても可
息抜き時間の過ごし方のマッピング
(クリックすると拡大します)

 これらの分析の結果、息抜き方法は、4象限の左上にある「隙間時間セルフリチャージ(自分のため・自宅)」に集中していることがわかった。また、興味深いことに、「自分のための時間」と回答しながらも「家族のため」に該当する人が、約3割いることが明らかになった。

 「『隙間時間セルフリチャージ(自分のため・自宅)』と回答した人でも、個別のコメントでは『酔っていると育児対応に影響が出るため、ノンアルコールビールを飲む』と回答していました。4象限における“家族のため”を意識していることがうかがえます」(伊藤氏)

「育休パパ」の2つのインサイトと商品開発のヒント

 今回の調査から得られた「育休パパ」に関するインサイトは、次のようにまとめられる。

  • 常にマルチタスク状態
    「育休パパ」は、家事・育児の役割をこなすための時間配分や、パートナーへの配慮、調整が必要な中で、常に注意が分散した状態で過ごしている。
  • 息抜き時間=「調整時間」
    重要なのは、「息抜き時間」も「調整時間」であり、単なる「個人的な娯楽時間」ではないという意識だ。「職場復帰したときに向けて勉強を進めている」という意見もあり、家庭・子ども・仕事(将来)にプラスを生むための時間として位置づけられている。

 このインサイトを商品開発やサービス設計に活かすには、以下のような視点が重要になる。

(1)制約のある時間設計を支援

  • 短時間で完結:まとまった時間が取れない育休パパに配慮
  • 隙間時間の活用:細切れの時間を有効活用できる仕組み
  • 中断・再開の容易さ:何かあればすぐに対応できる設計

(2)自身以外へのプラスを強調

  • 「パパ個人」ではなく「子どもや家庭、仕事にプラスになる」ことを訴求

 伊藤氏は、ノンアルコールビールのデザインイメージなどを参考例に挙げながら、「パパ個人」ではなく「子どもや家庭、仕事にプラスになる」など、自身以外へのプラスの部分に力点を置いて訴求することも大切な視点だと訴えかけた。

画像を説明するテキストなくても可
画像下部がインサイトを反映させた、クラフトビールの商品開発例。コンセプトは「つなぐ時間」で、「飲むことで気持ちがリセットされ、また家族や仕事に向き合う活力が自然に湧いてくる」というベネフィットを訴求。「アルコール度数を控えめに設計し、次の行動に負担を残さない」という機能的根拠を加えた
(クリックすると拡大します)

AI分析によってリサーチプロセスが5〜10営業日で可能に

 本セッションでは、「従来の『探索』プロセスを圧倒的に早めるリサーチの進め方」と「商品開発の成功確率とスピードを高める方法」についても知見が語られた。

 従来のリサーチの標準プロセスは、「テーマ設定」→「定性探索」→「仮説構築」→「定量検証」→「開発反映」という流れであり、特に「定性探索」と「仮説構築」のフェーズに多くの時間(2〜3ヵ月程度)とコストを要する。しかし、AIソリューションを活用することによって、その工程は大幅に短縮可能になる。

 伊藤氏は、「探索・仮説構築プロセスの精度を高めることは、その後の商品開発プロセス全体に大きな影響を与えます」と強調する。もし探索フェーズの精度が低いと、その後のセグメンテーション、ターゲティング、商品開発、実行、評価といったすべてのプロセスに悪影響を及ぼすからだ。

リサーチにAIソリューションを活用するメリット

  • 短期間でのデータ収集・分析
    5〜10営業日前後と大幅に短縮され、よりリーズナブルに実施可能
  • 大規模データの検証
    短期間で数百・数千サンプルを収集し、量的検証が可能
  • 精度の向上と客観性
    AIを活用した客観的な解釈により、データが網羅的になり、精度も飛躍的に向上

 さらに重要なのは、「定性意見の定量化」が可能になることだ。

「従来は定性調査と定量調査を別々に実施する必要がありましたが、AIを活用すれば、定性的な本音(なぜそう思うのか)と定量的な事実(どれくらいの人がそうか)を瞬時に行き来しながらインサイトを深掘りする『データルーピング』が実現できます」(伊藤氏)

 楽天インサイトが実践する「画像収集×AI解析」と「AIチャットインタビュー」は、従来のリサーチでは見えにくかった生活者の実態と意識を、正確に・網羅的に・素早く捉えることを可能にする

 「育休パパ」という新しい消費者セグメントのインサイトを掘り下げた今回の事例は、AIを活用したリサーチが、商品開発やマーケティング戦略の精度とスピードをいかに向上させるかを示す好例となった。

リサーチのスピードが劇的に変わる

楽天インサイトのAIを活用したソリューションなら、圧倒的なデータ量とスピードで生活者の本音を可視化し、商品開発までの道のりを効率的に短縮できます。本記事で興味を持たれた方は、楽天インサイト公式サイトからお問い合わせください。 

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
この記事の著者

塚本 建未(ツカモト タケミ)

ライター・編集者・イラストレーター。早稲田大学第二文学部を卒業後、社会人を経て再び早稲田大学スポーツ科学部へ進学。2度目の学部卒業後は2つの学部と高校デザイン科で学んだ分野を活かすためフィットネス指導者向け専門誌「月刊Fitness Journal」編集部に所属してキャリアを積み、2011年9月から同雑誌の後継誌「月刊JAPAN FITNESS」編集部の中心的な人物として特集・連載など数多くの誌面を担当した。現在はWebメディアに主な...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:楽天インサイト株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2025/10/20 11:30 https://markezine.jp/article/detail/49801