オンラインがメインチャネルでありながら、検索順位が低迷する課題に直面
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は、三井ダイレクト損保の提供する自動車保険およびバイク保険のSEO事例についてうかがいます。まず、施策を開始した背景を教えてください。
横田(三井ダイレクト損保):MS&ADインシュアランス グループの中でも当社は、インターネットを通じ、直接お客さまに損害保険商品やサービスを提供しています。契約におけるお客さまとの接点がオンライン中心となることから、これまでもCX・UX品質向上に力を注いできました。
池﨑(三井ダイレクト損保):オンラインがメインの販売チャネルとなりますので、自然検索からの流入は売り上げに大きく影響する重要な要素です。そのため、元々SEO施策は実施していました。
しかし、数年前に「自動車保険」という主要なビッグキーワード検索時の表示順位が大きく下落・低迷し、「バイク保険」なども不調となり売り上げにも影響が生じました。既存の施策ではこの状況を打開できない状態が続いたため、2023年12月からセプテーニ社との取り組みを始めました。
強みが異なる3社が連携!SEO施策改善に挑む
MZ:具体的な取り組み内容をご説明ください。
高橋(セプテーニ):セプテーニではデジタルマーケティング全般を支援していますが、今回はSEOのコンテンツ領域とテクニカル領域それぞれに強みを持つデライトチューブ社、プリンシプル社と連携することで、より効果的な取り組みを目指しました。
高橋(セプテーニ):当社は、主に競合他社の直近の動向把握や、広告出稿量に対する効果分析と戦略立案を担当しました。他社が実施していて三井ダイレクト損保社が実施していない施策の有無を分析し、その中から効果的に実施できるものを抽出。それらを実際にコンテンツとして制作できるかどうかの検討も行いました。
参考にすべきところは積極的に取り入れる一方、「導入しない」という意思決定も状況に応じて必要です。そのため、情報を整理しながら方針を明確にしていきました。
マイナス要因を減らし、プラス要因を積み上げていくSEO
外山(プリンシプル):データに基づいた戦略策定に強みを持つプリンシプルでは、テクニカル面でSEO施策のサポートを行いました。三井ダイレクト損保社のサイトはビッグキーワード検索時に1ページ目に表示されてもおかしくないレベルや規模でしたが、実際には上位表示されていない状況でした。
様々な要因が絡み合い、明確な原因の特定が難しい中で、可能性をすべてリストアップし一つずつ解消するアプローチを実行しました。たとえば検索エンジンでマイナス評価される要因に「キーワードの詰め込み」「意図しない隠しリンク(ユーザーが視認できない形で設置されるリンク)」「品質の低い外部リンク」などが挙げられます。こうした考えうる要因に対して、一つひとつ確認と対応を行いました。
また、サイト内のトップページや重要ページへの導線が整っていないなど、構造面の課題にも対応。クローリング、インデックス、見出しタグなど、様々な技術的観点から仮説を立てて地道に改善を積み重ねました。
江口(デライトチューブ):セプテーニグループでコンテンツマーケティング支援事業を手掛けるデライトチューブでは、コンテンツ面のSEO支援として、サイト全体の評価を向上させるため、各種コンテンツの最適化に取り組みました。三井ダイレクト損保社は既に多数の記事やコンテンツをお持ちでしたが、重複している記事やSEOの観点で最適化されていない記事も見受けられました。そこで、記事のリライトや不要な記事の精査、必要箇所の追加などを提案し、対応しました。
同一キーワードの類似記事が多数存在していることを改善するため、リライト作業ではユーザビリティを向上させるとともに、キーワード検索の流入を的確に獲得できるよう意識しました。また、構造化データやメタタグなど技術的要素が不足している記事にも対応することで、様々な検索ワードでの上位表示を狙えるよう改善しました。トップページも同様に、コンテンツの追加や今後狙っていくキーワードへの対応を実施しました。
外山(プリンシプル):テクニカル面の対策はマイナス要因を0にする役割であり、コンテンツ対策はプラス要因を積み上げていく役割となります。両方とも欠けてはいけないため、チーム一体となって密に連携しながら取り組みました。
ビッグキーワードの検索順位が大幅向上&キープ!売り上げにも直結
MZ:取り組みの成果についてお聞かせください。
横田(三井ダイレクト損保):本取り組み前、自動車保険に関しては、先述のとおりビッグキーワードの検索順位が圏外まで落ち込んでいる状況でした。2023年12月の開始以降、徐々に成果が現れ、順位が緩やかに改善。翌年12月には大幅な順位上昇を見せ、現在(2025年9月時点)は検索結果の1ページ目に定着しています。
また「自動車保険 見積もり」といった関連キーワードの検索結果についても合わせて向上し、現在、自動車保険の自然検索経由でご契約いただいた保険料は、低迷していた昨年と比較して、約200%で推移している状況です。
バイク保険も同時期にビッグキーワードの検索順位で1位を記録。現在も好調を維持しています。
外山(プリンシプル):取り組みを開始したのが2023年12月でしたが、特に重要なキーワードについては、検索結果の1ページ目に表示されたのが11月のコアアップデート(検索アルゴリズムとシステムの大規模な変更)のタイミングでした。その間の10ヵ月ほどは「少しずつ改善しているものの、まだまだ」という状態が続く辛抱の時でした。
そのような中でも三井ダイレクト損保社には「どのような施策もまずは提案してほしい」と全面的にご協力いただき、私たちもプロフェッショナルとしてあらゆる可能性を考え抜きました。実施してみて表示順位向上に結びつかない場合は、方向性の変更を比較的短期間で実施するなど、一歩一歩進めていった結果が成果につながったと思います。
江口(デライトチューブ):実際に成果が出るまでの期間は、様々な議論を重ねました。たとえば検索ボリュームの大きいキーワードだけでなく、コンバージョンにつながるキーワードも獲得を狙うといった、量と質の両方を担保することを意識しましたね。
高橋(セプテーニ):特にSEO施策は、時間軸を半年~数年単位といった長期視点で捉えることが求められます。踏ん張りながらも先を見据え、地道にやるべき施策を実行できるかがカギだと実感しています。
三井ダイレクト損保のSEO施策が成果を出せた理由とは?
MZ:成果につなげるポイントはどういったところにありますか。
横田(三井ダイレクト損保):SEOは他のマーケティング施策と異なり、検索エンジンのアルゴリズムに依存するため、施策の方向性を判断することが難しい面があります。
セプテーニ社、デライトチューブ社、プリンシプル社には、詳細な調査を実施いただいた上で、改善策を提案いただきました。それらの施策を可能な限り実行し、その結果を踏まえて粘り強く改善を重ねたことが、今回の成果につながったポイントだと考えています。
またSEOを含むSEM(検索エンジンマーケティング)も昨今、環境変化が大きく、動向を注視することが必要です。顕在化した課題への対応も重要であるものの、動向を的確に読み、方針を都度見直しながら先手を打つことはさらに重要と考えています。
池﨑(三井ダイレクト損保):別の観点で言うと、施策の実行プロセスの品質も今回の成果につながる重要な要素だったと思います。
SEOでは色々と施策を実行しても、成果が上がらないことが多々あります。そういった状況でも着実に取り組みを継続していくことが求められ、その際にプロセスの品質が問われるものと考えています。事業者の観点から特に重要だと感じるのは、パートナー企業との信頼関係、自分たちの取り組み姿勢の2点です。
まずパートナー企業との信頼関係については、双方の対応の品質や妥当性の積み重ねはもちろん、気になることがあった時にお互い忖度なく議論できるか、率直な意見を交わせるような関係性ができているか、といった側面も非常に重要です。
そしてもう一点は、考えることをパートナー企業に丸投げしないこと。事業者側である自分たちもしっかり考えて議論し、納得した上で実行していく姿勢が大切です。そうすることで要所での判断がしやすくなりますし、SEO施策全体をより建設的な取り組みにしていけるはずです。
これからSEOはどうなるか。AIOへの戦略と展望
MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
横田(三井ダイレクト損保):現在のSEO施策も重要ですが、AIプラットフォームへの対応も積極的に推進していきたいと考えています。社内でもSEOにAIO(AI最適化)の視点を加えた方針策定を進めています。
環境や消費者の検索行動の変化にともない、事業会社のWebサイトに求められる情報も変化しています。特に近年はAIプラットフォームの登場により、消費者の検索行動がキーワードベースからニーズベースへとシフトしています。現在、当社商品・サービスのビッグキーワード検索順位は従来より高い水準にありますが、私たちも早い段階から従来型のSEO施策に加え、次のステップへの移行を進めてきました。
SEO施策で培った経験や知見を活かしながら、AIに最適化した新たな取り組みをさらに推進していきたいと考えています。
池﨑(三井ダイレクト損保):従来のWeb検索と比較して、AI検索は生活者の本来の目的によりフィットした体験を提供するものになると考えており、AI検索への移行は遅かれ早かれ進むと予想しています。Webサイトの自然流入は当社にとって重要なチャネルですので、この変化を見て見ぬふりせず検討と対応を進めていきます。
AIOにはこれまでのSEOの延長線上にある部分と、そうではない部分が混在してくるでしょう。今後の動向や環境を予測し、その中で自分たちがどうありたいかを改めて考えつつ、実行に向けて準備しているところです。
外山(プリンシプル):今後の変化の的確な予測は難しく、試行錯誤を繰り返しながら前進するしかありません。テクニカル面では、Google以外にもChatGPTやPerplexityなどのAI検索エンジンへの対策に加えて、ユーザーの検索行動が実際にどのように変化していくかの観察が必要です。また、適切にPDCAサイクルを回すには効果測定が不可欠です。そのため、試験的なデータ取得から始めることも重要と考えます。このチームなら、AI時代の新しい検索の世界でも着実に前進できると思います。
江口(デライトチューブ):変化し続ける状況だからこそ、地道な従来のSEO施策を継続していく必要があります。AIO戦略の基盤にもつなげるべく、こうした泥臭い積み重ねを続けていきます。ユーザーがAIで情報を取得した際に、最終決定を後押しできるコンテンツを追求し、取り組みをさらに深化させていきたいと考えています。
高橋(セプテーニ):引き続きSEO施策を継続しつつ、AIOに対する打ち手やKPI設定を現在議論しています。刻々と状況は変化していますが、一つひとつ課題を解決しながらAI対策を推進し、三井ダイレクト損保社の売り上げに貢献できるよう今後も伴走していきたいと思います。

