B2B文脈におけるオンライン・コミュニティ
最後に、慶應義塾大学大学院の長橋明子氏と早稲田大学大学院の及川直彦客員教授の論文「B2Bブランド・コミュニティ活性化のメカニズム ― 自己効力感の形成プロセスと能動的参加行動 ―」は、これまで研究の蓄積が少なかったB2B(企業間取引)コミュニティに焦点を当てています。
実はオンライン・コミュニティ研究のほとんどは、B2Cコミュニティを対象としたものでした。「どうすればコミュニティが活性化されるのか」というのは対象に関係なく永遠のテーマです。本研究は定量調査と定性調査を組み合わせながら、そのテーマに取り組み、コミュニティにおける能動的参加行動のメカニズムを明らかにしています。

複雑な現象を捉えるための研究アプローチの進化
本特集号で紹介された5つの論文は、現代コミュニティの多様な姿を浮き彫りにすると同時に、その研究手法の進化を示しています。特筆すべきは、数値データで全体像を把握する定量的アプローチと、インタビューなどを通じて個々の参加者の深層心理を探る定性的アプローチを組み合わせた混合研究法の活用です。
オンライン・コミュニティは、テキスト、画像、動画、ログデータといった、構造化されていない膨大な非構造化データを絶えず生み出しています。この複雑で多層的なデータを解釈し、参加者の動機や感情、そして彼らの間で育まれる複雑な人間関係を深く理解するためには、単一のアプローチでは不十分です。
たとえばB2Bコミュニティの研究では、アンケート調査による定量分析で自己効力感と行動の相関関係を示しつつ、インタビューによる定性分析で、なぜ自己効力感が高まるのか、その具体的なメカニズムを解明しています。このように両アプローチを組み合わせることで、現象の「WHAT(何が起きているか)」だけでなく、「WHY(なぜ起きているか)」までを深く洞察することが可能になるのです。
紹介された論文は、コミュニティがいかに多様で絶えず進化しているか、そしてその複雑な現象を捉えるためには、私たち研究者もまた分析手法を絶えず進化させていく必要があることを教えてくれます。これは、データと顧客インサイトの両輪で市場を理解しようと努めるマーケターの実務にも通じる姿勢といえるでしょう。
Arvidsson, A., & Caliandro, A. (2016). Brand public. Journal of Consumer Research, 42(5), 727-
Hoffman, D. L., & Novak, T. P. (2018). Consumer and object experience in the Internet of Things: An assemblage theory approach. Journal of Consumer Research, 44(6), 1178-1204.
Kraut, R. E., Resnick, P., Kiesler, S., Burke, M., Chen, Y., Kittur, N., Konstan, J., Ren, Y., & Riedl, J. (2012). Building successful online communities. The MIT Press.
Muniz Jr, A. M., & O'Guinn, T. C. (2001). Brand community. Journal of Consumer Research, 27(4), 412-432.