4.広告もスピード感が欠かせない時代に、ユニクロ 母の日/父の日新聞広告
山田:そしてもう1つ取り上げたいのが、ユニクロの「母の日/父の日」広告です。お笑い芸人・ダイアンの津田篤宏さんが母親のきみ子さんと並んで登場する広告で、TBS番組『水曜日のダウンタウン』の企画の中で津田さんが、「長袖をください」「ユニクロ寄ってください」と発言して話題になっていたのを拾って広告にしちゃったというケースでした。

決められたメッセージを押し出すのではなく、視聴者の声や番組の文脈をすぐさま広告に取り込んだ点が新鮮だと思うのですがが、いかがでしょう?
三浦:ユニクロのような大きなブランドが、テレビ番組で生まれた反響を即座に広告化する。この「反射神経」の良さが光りますね。
SNSの時代、広告は一方的に発信するのではなく、生活者とのキャッチボールできるくらいの関係性が求められます。だからこそ、企業は意思決定のスピードを従来の3倍くらいに引き上げる必要がある。クリエイターの発想力やキャスティングの妙も素晴らしいですが、実際にこれを実現できる意思決定回路を整えているユニクロとエージェンシーの体制も評価すべきだと思います。
福里:それで言うと、2024年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した博報堂の宮永充晃さんが「企画書に時間をかけている場合じゃない」とおっしゃっていたのが印象的でした。広告主に企画書を提出するやり方だと1〜2週間はかかってしまうので、LINEなどで直接「こんなアイデアどう?」とすぐにやり取りできる関係性をつくることが、スピーディーな展開には欠かせない、といったお話でしたね。

三浦:本質的には同感です。僕らの会社でもルールを設けていて、クライアントから相談を受けたら48時間以内に初期の企画を提出することにしています。AIを活用すれば情報収集や資料づくりも早いですし、最初の企画に時間をかけすぎても意味がない。そういうスピード感が問われている時代だと思います。
5.広告=メディア投資だけではない、ファミリーマート「ぴえんシール」
山田:続いて、三浦さんが選んだ事例をご紹介いただけますか?
三浦:はい。ちょっと我田引水みたいで恥ずかしいのですが、私たちの会社が関わったファミリーマートの「ぴえんシール」を挙げたいと思います。これはおにぎりなどの商品に消費期限が近づいたら「たすけてください」のセリフと共に「ぴえん」と泣いている顔のシールを貼るという、とてもシンプルな施策です。

福里:かわいらしい仕掛けですよね。実際に効果はあったのでしょうか?
三浦:売上が5ポイントほど上がり、年間で3,000トンのフードロス削減につながったと聞いています。「売れ残りのおにぎりを食べよう!」「フードロスやめよう!」と広告で訴えるのではなく、商品そのものに感情を持たせ、「助けてあげたい」と思ってもらうことで行動につなげる狙いがありました。

福里:なるほど。その「かわいそうだから買ってあげよう」という心理を突いたのが面白いですね。
三浦:そうなんです。「マーケティング=メディアを使うこと」だけではないと思います。プロダクトや売り場の工夫によって課題を解決するのもマーケティング。冒頭でお話しした「マーケティングが狭く捉えられがち」という話ともつながりますが、4Pのプロダクトやプレイス、プライスにまで踏み込むことで、もっと面白い仕事ができるのではないでしょうか。