④人と話せる、が価値になる
このように、あらゆる体験を積極的にAIに置き換えていくと、反対に「ここはもう人間にしかできない」という部分も見えてくる。細田氏は、「もしも高級ホテルのコンシェルジュがAIになったらどうでしょう。自動運転はAIに十分任せられると感じるけれど、自動演奏には感動できないかもしれません」と問いかける。
ブランドは、どこまでをAIに任せ、どの部分を人間がやるべきなのか、見定める必要がある。たとえば、ビームスの設楽社長は「『会いに⾏きたい』スター社員を育てる」と宣言しており、社員という人間にしか生み出せない価値を重視している。
「感動や共感、信頼といった価値が生まれる場所は、人間ならではの領域。そこをすべて人間が担うべきか、あるいは人がAIの力を借りて行うべきか、ブランドは個々の判断基準を持って見極める必要があります」(細田氏)
加えて細田氏は、「AIと対話する快適さはシーンで変わる」と説明。調査データによると、同じブランドでも、接点のタイミングによってAIに感じる心地よさが変わってくる。カスタマージャーニーの「学習」「購入」「購入後」の3つのタイミングにおいて、早いタイミングのほうがAIとの相性がよく、購入~購入後の体験には人間がいたほうが心地よいという。
ただし、人が必須の場面でも、AIを活用することでより価値を増幅することも可能だ。細田氏はその例として、同社が支援して開発した「TikTok×MKタクシー」の取り組みを挙げる。

これは「京都の隠れた名所をベテランドライバーが世界中の人に教える」という動画コンテンツ。日本語で話している動画をアップロードするだけで、15か国語に翻訳され、音声も変換、リップシンクも自動で自然に加工される。
「人の持っている知恵や経験値をAIで増幅することによって、今までアプローチできなかった領域に手が届く可能性が生まれるのです」(細田氏)
⑤人とAIを組み合わせるブランド体験が常識に
では、人間が担うべき部分とAIに任せるべき部分のすみわけは、どのように判断すればいいのか。細田氏は最後のポイントとして、人×AIの体験設計のヒントを説く。
「AutomationとAugmentation、Humanizationの3点を考えるのです」(細田氏)
1つ目の「Automation」が適用できる場面とは、24時間対応のサポートアシスタントなどだ。これはAIだけで完結できる領域である。一方で、二つ目の「Augmentation」はAIが人を拡張する考え方だ。先ほどのタクシードライバーの動画のように、AIと人間性の掛け合わせによって新しい価値を提供できる。3つ目の「Humanization」は、信頼構築などの「ここは人間しかできない」という部分に焦点をあてる考え方。
この3つを自社のブランドに合わせてバランスよく取り入れるのが理想的な体験設計だ。
AIによる自動化の許容度は、ビジネスによって変わってくる。顧客との接点において、どこまでAIが許容されるかの分岐点は、トライアルアンドエラーを重ねて探っていく必要がある。
「自動化の許容度が低く、エモーショナルな価値が大事な部分にはHumanizationで対応していく。機能的な価値が重視されてAIを取り入れられるものの、自動化への許容度が低い場合は、AIで人を拡張していく。こういった分類が重要です」(細田氏)
細田氏は、「こういったものをうまく組み合わせていけるブランドが、新しい体験価値を作っていくでしょう」と提言し、次のメッセージで講演を締めくくった。
「AIは日々人間から学んでいき、またブランドにAIが搭載されていく中で、私たちもAIから人間を学んでいく。AIの活用が進むと、意外と人間らしいブランドが増えていくのではないかと思います」(細田氏)
