フレームワークを「絵に描いた餅」にしない方法
飯髙:フレームワークを活用すると、戦略を描いて終わる、いわゆる絵に描いた餅になることも多いと思います。それを防ぐためにどうされているのでしょうか?
竹渕:9segsをクラブとの共通言語にして対話をしています。具体的にはクラブごとに各セグメントのデータをリーグと共有し、その割合がどのように動いているか、どのような施策が効果的だったかなどを明確にしながら話し合えています。

飯髙:9segs利用前後で何が変わったのでしょうか?
竹渕:データは、とりあえず集めておけばいいと思いがちです。ただ、本来はデータをどのように活用するかという「型」を決め、愚直に実行し続けて、レビューと改善をしていくことが重要だと思います。Jリーグでは9segsを導入したことによって、数多いデータをシンプルに振り分けて扱えるようになりました。それによって全体のマーケティングのリソースや考え方を集中投下できるようになったのが一番大きいと思います。
小森:9segs導入前は、たとえばイベントを実施しても、イベント参加者への満足度アンケートしかできず、それが本当に次の来場につながっているのかが見えませんでした。しかし今はJリーグIDを紐づけることで、イベントの告知や実施の前後で9segsのセグメントを移動したかどうかを確認できるようになっています。このような定量的な指標と、アンケートなどの定性的な指標をうまく組み合わせることができています。

竹渕:来場動機と満足度貢献をしっかり分けることも大事だとわかりましたね。来場という行動変容に影響するものなのか、当日の体験満足が高まるものなのかで、コンテンツや施策が変わってきます。そこを分けて考えることで、リピートにつながる施策を組み合わせることができました。
ユーザーファーストは愚直な積み重ねから成り立つ
飯髙:お二人は一般企業からJリーグに入られましたよね。Jリーグの取り組みで、一般企業が生かせそうだと思うところはありますか?
小森:私は以前クラブ側にいたのですが、集客施策としてイベントでシャツを配ったことがあります。結果として「シャツを配ればある程度の人が来る」ということはわかりました。9segsを知っていると、さらに「この層が動いたんだな」とか「ここを狙ったけれど実際は違う層に刺さったのかな」など、解像度高く振り返ることができます。
竹渕:Jリーグに入って未顧客、離反層と認知未利用層への観点がかなり鍛えられました。たとえば認知未利用層について、来場の意向がある人とまったく関心がない人の2つに分けて、それぞれに対して施策のトライアンドエラーをしてきました。このような分類は、他のブランドや事業会社に入ったとしても役立つ観点だと思います。
飯髙:マーケティングにおいて、ユーザーファーストという言葉を一人歩きさせてはいけないと思っています。Jリーグさんはデータを用いることはもちろん、本当に皆さんスタジアムに足を運んで、そこでファン・サポーターの話も聞いていますよね。すべてを愚直に行っていることで点と点がつながり、いろいろな成果が出ていると感じます。

事業会社や支援会社でマーケティング活動をしている皆さんも、自分は本当にユーザーに向き合っているかを問うていただきたいと思います。必ずしも9segsに落とす必要はないかもしれません。改めてお客さまに向き合い、なぜこの人は買っているのだろう、なぜ買わないのだろうという部分を問い直していただけるといいのではないでしょうか。
