爆上がりするマーケティングコストをどう解決すべきか?
多くの企業のマーケティング関係者が、マーケティングコストの上昇に頭を悩ませているのではないでしょうか。
SNS、動画配信、ECプラットフォームなどのメディアが多様化し、効率良く物が売れたテレビCMを軸としたマスマーケティングの仕組みは崩壊しつつあります。そして、消費者の行動はますます読みにくくなり、従来の手法では太刀打ちできない状況が続いています。
そんな構造的な変化に直面する企業関係者に、1つの解を示してくれるのが、横山隆治氏の15年ぶりの新刊『新トリプルメディアマーケティング 3要素の連携を仕組み化し、戦術を最適化する』です。

著者は、2010年代にマーケターの共通言語となったフレームワーク「トリプルメディア(POE:Paid・Owned・Earned)」の提唱者。しかし、その張本人が「トリプルメディアは単なる機能分担図と化しており、実践的ではない」と、自らの理論に終止符を打ちます。
「双六型」から「ビンゴカード型」へ
POEを取り巻く状況を見ると、オウンドメディアの運営に苦戦する企業の急増や、テレビCMの影響力の低下はマーケターにとって周知の事実と言えるでしょう。そして何よりも、POEモデルの前提となっていた購買意思決定のプロセスが大きく変化したことが、その有効性を失わせていると著者は言います。
従来のマーケティング教科書に書かれているAIDMAやAISASといったモデルは、消費者が一定のプロセスを踏んで購買意思を決定する「双六型」の考え方に基づいています。しかし現在は、いくつかのパーセプションが揃うと購入意思決定のスイッチが入る「ビンゴカード型」になっているのだそう。
「ビンゴカード型」に対応するためには、ターゲットごとに最適なメッセージを動的に配信し「ビンゴ!」となるパーセプションの組み合わせを成立させるような「仕組み化」が求められます。そして、「新トリプルメディア」を提唱するに至ったのです。
SNS、コンバージドTV、リテールメディア──なぜこの3つなのか
著者が挙げる新たな3つのメディア、それは「SNS」「コンバージドTV」「リテールメディア」です。
そして、消費者の心を動かす多様な役割を、この3つのメディアが連携して担い、最適なメッセージを届ける「仕組み」を構築することこそが、新トリプルメディアの核心です。
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SNS(戦略の中心)
マーケティングの起点は、消費者が「自分だけが気づいているこのブランドの価値」と感じるUBP(Unique Believed Proposition)をSNSから発見することから始まります。このリアルなインサイトが、戦略全体の核となります。 -
コンバージドTV(リーチと精度の両立)
テレビの広範なリーチ力と、デジタル広告の精緻なターゲティング技術を融合。GRP(延べ視聴率)といった従来指標から脱却し、実態に即した価値評価を可能にします。 -
リテールメディア(購買の後押し)
小売業者が持つファーストパーティデータを活用し、購買直前の顧客へ的確にアプローチする最終的な役割を担います。
「仕組み化」がもたらす競争優位
横山氏が最も強調するのは、これら3メディアを個別に運用するのではなく、一つの「仕組み」として統合することの重要性です。
SNSで発見したインサイトを起点に、各メディアでメッセージを最適化し、効果測定とフィードバックのサイクルを高速で回す。この循環システムによって、広告は「打ちっぱなし」のコストから、「自ら学習し、進化し続けるマーケティング装置」へと変わります。
この変革を支えるのがAIです。分析、クリエイティブ生成、効果測定など、あらゆる領域でAIを「強力な武器」として活用し、人間では不可能な規模と速度で最適化を実現します。
このアプローチは、従来の縦割り組織から、データとインサイトを共有するアジャイルな体制への転換を図ります。「少数精鋭でじっくり作る」のではなく、「多様なパターンを迅速に開発し、効果検証を繰り返す」へ。企業のROI(投資対効果)に対する考え方についても、明確な方向性を示す提言となっています。
変化の時代を生き抜く企業へ
メディア環境の激変、消費者行動の複雑化、AIの台頭——。これらの変化は、企業のマーケティング活動に根本的な見直しを迫っています。
本書は、テレビCMを中心にマスマーケティングを主導してきた大企業の担当者や広告代理店に、特に関連の深い内容でしょう。そのため、ウェブやSNS中心のデジタルマーケティングの最前線にいる方にとっては、一部、思想的なギャップを感じる部分もあるかもしれません。
しかし、変化の激流に立ち向かうすべての企業にとって、自社の立ち位置を正確に把握し、未来のマーケティング組織を見据えた戦略的な転換を図る上で、極めて貴重な指針となる一冊です。
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