獲得単価が高騰、LTV向上が課題に
――まず、ゲームアプリ広告市場の現状について教えてください。特に、ユーザー獲得とマネタイズにおいて、企業のマーケターはどのような課題を抱えているでしょうか。
峯(Unity):ゲームアプリ広告の市場はコロナ禍で伸長しましたが、その後は競争が激化し、マーケターのマーケティング戦略はより洗練されました。同時に、各種プライバシー規制等の変化により、CPI(インストール単価)が高騰しています。そのため、1ユーザー当たりの収益性を高める、つまりLTV(顧客生涯価値)を上げることが課題になっています。
松下(AppsFlyer):アプリ広告市場はまだ拡大傾向ですが、業界や手法によっては成熟期に入っています。特にゲーム業界は、広告展開に工夫が求められています。各社のマーケターは、質の高いユーザー、つまりインストール後にアクションしてくれるユーザーを増やすことに非常に苦労しているのが現状です。
新井(AppsFlyer):広告を配信すると多くのデータを得られますが、データ上はうまくユーザーを獲得できているように見えても、事業全体の収益性やアクティブユーザー数との間にギャップを感じている企業も多いです。一方、順調に成長する企業は数字を見るだけでなく、データを細分化して分析し、「なぜこの結果になったのか」を説明できる状態にあります。
アドフラウドにマーケターの時間が奪われている
――LTV向上のために、きちんとユーザーを増やす事が重要な一方で、正しいデータを取得できていないケースがあるのですね。データ上はユーザーを獲得できているように見えても、実際の収益は増えていない。その原因の一つにアドフラウド(不正広告)が挙げられます。マーケターにできる対策はありますか。
新井(AppsFlyer):不正広告を発見するため、データのログを血眼になって確認する人もいますが、不正広告も日々進化しており、いたちごっこになっています。様々な種類の不正広告が様々なところで発生しているため、人の目でデータを確認してもわからないのが現状です。
そこにマーケターが時間と労力を費やす必要はありません。本来、マーケターはマーケティング施策によって新しいユーザーを連れてくることが重要です。AppsFlyerのような大規模なデータセットを持っている企業であれば、AIも活用してリアルタイムで不正広告を検知、ブロックする技術があります。対策は当社に任せて、マーケター本来の業務に注力してもらえたらと思います。
――Unityは、モバイルゲーム向けの広告プラットフォームを提供する立場ですね。正しいデータに基づいて施策を回してもらうために、どのような取り組みをしていますか。
峯(Unity):「App Store」と「Google Play Store」のレギュレーションに準拠し、当社と直接リレーションを持つ媒体のアプリに、当社のSDK(ソフトウェア開発キット)を実装していただいています。そのため、アプリとその運営企業が実在し、かつレギュレーションに準拠していることがベースとなります。開発者にとって、SDKネットワークと直接的な関係を築くことは大きな利点です。これにより、透明性の低いチャネルでは得がたい、優れたコントロール、信頼性、品質というメリットを確実に享受することができます。
また、専門チームが自社開発の不正検知ツールを主軸にトラフィック品質のスクリーニング、評価、アービトレーションを行っているだけでなく、業界団体認定のサードパーティツールなどを二重三重に使って確認し、細心の注意を払っています。
インストールの正しい“起点”をいかに突き止めるか?
――正しい計測とLTV向上のために、AppsFlyerのソリューションにはどのようなものがありますか。
松下(AppsFlyer):AppsFlyerはアプリマーケティングの計測ツールを提供しており効果計測、分析、エンゲージメントなど、提供するソリューションは多岐にわたります。たとえば、ユーザーの流入経路を正しく計測したり、よりユーザビリティの高いリンクを提供したりするサポートをしています。
私たちの思想では、オーガニック(自然検索)による流入は“ない”と考えています。ユーザーは間違いなく何かのきっかけによってサービスを認知して、インストールに至るからです。何が起点となってインストールが発生しているかを突き止めるため、インストールに至ったときの状況や、効果的だったクリエイティブなどを細かい粒度で計測するソリューションを提供しています。
――具体的に広告主の課題に応じて、実際にどのような提案をしているのですか?
新井(AppsFlyer):まずは「Protect360」の導入をお勧めしています。当社の大規模なデータセットを活かして、お客さまのデータをリアルタイムで守るソリューションです。
「プロテクト」という名称ですが、“攻めのツール”だと考えています。リアルタイムで不正広告をブロックすることで、安心して様々な広告媒体を試せるからです。Protect360に加え、様々な手法で算出されたデータを組み合わせながら、総合的に評価するのが良いと思います。
配信チャネル偏重が、フラットな評価と改善を妨げる
――収益性を高めるためには、「どこから」質の高いユーザーを連れてくるかが重要かと思います。現在、どのようなチャネルを使う企業が多いのですか。
峯(Unity):日本ではいわゆるウォールドガーデンと呼ばれる大手媒体を主軸に広告を配信するケースが多いです。リーチできるユーザーの母数が多く、最適化技術も進歩しているため、目標のROAS(広告の費用対効果)に合わせやすいからです。

一方、その方法では最適化が進むほど目標に対する確度は上がるものの、ボリュームが先細りになる傾向があります。また、特定のチャネルに依存すると、その媒体のトレンドに収益が左右されてしまいます。信頼できる大手媒体で成果を出すことも重要ですが、安定したパフォーマンスを得るためにも、新しいチャネルへのチャレンジも非常に重要です。
――実際に、チャレンジしている企業もありますか。
峯(Unity):海外、特に中国の企業は、ゲームのローンチ時から幅広いチャネルで大々的に配信し、その後にチャネルを絞っていくアプローチが多いです。反対に、一つずつ試していく方法は、どこかでつまずいたらそこで終わってしまいます。どちらのアプローチを選ぶかによって結果が大きく変わってきます。
また、配信先が一つに偏ると、施策がうまくいかなかったときに、たとえば「クリエイティブが悪かったのか」「配信先のチャネルに問題があったのか」「そもそもゲーム自体に課題があったのか」といった原因の切り分けが難しくなり、正しく改善の打ち手を絞り込めません。フラットに施策を評価するためにも、配信面を広げていくことが重要です。
――広告配信先を広げる際に、どのチャネルに出稿するか、判断軸はありますか。どこを評価すると良いのでしょうか?
峯(Unity):CPIが同じであっても、チャネルによって特性が異なるため、その違いを正しく認識する必要があります。たとえば、ベンダーと直接契約をしているか。できるだけ直接的なリレーションを持っているところを選ぶと、最小限のリスクでチャネルを広げることにつながります。
また、各チャネルの指標を理解することも重要です。インプレッション数やクリック数など、同じ指標でもチャネルによって計測方法や定義が違うこともあります。それを媒体側がしっかりと説明してくれるかどうかもポイントです。Unityは、開発者の皆さまが適切な判断を行えるよう、可能な限り多くのデータを共有する透明性の高いプラットフォームを提供しています。
媒体・広告主・計測ツールの「三位一体」が理想
松下(AppsFlyer):メディア、広告主、計測ツールベンダーは三位一体で取り組むべきだと思います。当社は正しい情報を中立的に、細かい粒度で計測したデータを提供します。出稿先のメディアがそれを検証できる情報を持ち、それをもとに広告主が判断するというスキームの確立が理想です。

――三位一体で進めていくのが理想なのですね。実際に、そのような取り組みは可能でしょうか。
新井(AppsFlyer):特にクリエイティブ制作は、連携を深められる領域だと思います。クリエイティブの検証には時間がかかることが課題です。AppsFlyerはデータを一元管理できるので、各メディアを通してクリエイティブの効果を検証し、PDCAを高速で回せます。その情報を広告主にフィードバックしてより良いクリエイティブを作ってもらう、という取り組みができると思います。

――Unityでは、どのように広告主に情報を共有し、サポートしているのですか。
峯(Unity):キャンペーンやアプリ、クリエイティブごとに、かなり細かくパフォーマンスを把握できるレポートを提供しており、広告主が成果を正確に把握できるよう支援しています。また、社内のクリエイティブスタジオでは動画やプレイアブル広告の制作だけでなく、クリエイティブ、オーディエンス、競合分析などのデータやインサイトを提供しているほか、広告主自身がプレイアブル広告を制作できる独自ツールの「Unity Playworks」も提供しています。このエンドツーエンドのエコシステムにより、広告主はUnity環境内で迅速にテストし、学び、最適化を進めることができます。
AIも活用しながら、企業を強力サポート
――ここまで両社のお話をうかがいました。マーケターは今後、どのようにアプリ広告施策に取り組めば良いとお考えですか?そのサポートのためにUnityとAppsFlyerが取り組んでいることも含めて教えてください。
松下(AppsFlyer):シングルソース、つまり一つの集約されたデータをもとに、最適化や評価をするべきだと思います。正しい情報を一つのソースで見ていくことが重要です。そこから施策を設計したり試したりすることで、より効果的な運用が可能になります。当社はスピード感を持って、マーケティングの効率化をサポートします。
また、AI活用にも力を入れています。アドフラウド対策も、AIの有無による差が非常に大きいです。
新井(AppsFlyer):AIの導入によってアドフラウド検知の精度が7倍以上、検知のスピードも8倍になったというデータが出ています。それによって、抑止効果は14倍にも拡大します。
不正広告の検知だけでなく、様々なプロダクトの基盤でAIの搭載を進めています。あくまで最終的に意思決定を行うのは人であるべきですが、お客さまが求めるものを迅速に、最高の形で届けるために、AIにフルコミットして取り組みを進めています。
峯(Unity):CPIの高騰や市場環境の変化により、開発者はマネタイズ戦略を強化する必要があります。こうした市場の需要に対し、当社はゲームエンジンを提供する立場として、豊富な知見やデータを活かしたコンサルティングを提供しています。たとえば、アプリのデザインやUI/UXの改善による収益性向上のほか、課金と広告収益の双方を最大化するハイブリッドなマネタイズ戦略の導入や、アプリ内経済の構築など多岐にわたるサポートを提供しています。
また、今後はUnity Adsのユーザー獲得を支える中核となるAIモデル「Unity Vector」の拡張を進めていきます。Unityが「ゲーム開発」と「ユーザー成長」の両方を支える唯一の企業であるという圧倒的な強みを基盤に、「適切なプレイヤー」と「適切なモバイルゲーム」をつなぐよう設計されているのがVectorです。スケールとクオリティの両面を強化することで、競争が激化する市場においても、広告主の皆様が持続的にビジネスを成長させられるよう支援していきたいと思います。

