障壁3:PDCAサイクルが回らない
最後の障壁は、なかなか施策の改善策を検討することができず、次の打ち手につながらないというものである。PDCAと聞いて、自分の会社ではブランドの定点調査を実施してKPIを捕捉しているから問題ない、と思われた方も多いだろう。本稿の前半で解説したKPIが目標水準に到達しているか測ることは、PDCAの要である。ただし、これだけではPDCAを回すには不十分である。
PDCAを回す鍵:施策に合わせた「6つの観点」と適切な効果検証調査
適切なPDCAサイクル構築のためには、図表9に示す「6つの観点」を継続的に把握する必要がある。そのためには、ブランド全体の状況を把握する定点調査に加えて、個別の施策が本当に効果的だったのかを検証するための調査も行うことを検討すべきである。
弊社が用いる効果測定には大きく2つの調査方法があり、プロモーションの規模や期間によって使い分けている。1つ目は差分の差分法で、出稿前後のKPIリフトを広告認知者と非認知者で比較することで、外部要因の影響をできるだけ排除し純粋な広告効果を把握する手法である。これは、広告出稿が一時的に大きな山場を形成する短期集中型の出稿の場合に有効である。
2つ目は補正差分法で、認知者における選択バイアス(元々KPIを保有している人のほうが広告を認知しやすいバイアス)を補正してから両者を比較することで、広告効果の正確性を高める手法である。この手法は、長期間にわたり継続出稿している場合に有効である。このように、効果検証にも様々な手法があり、自社の施策にあわせて適切な手法を選択することによって、実施した施策が効果的であったのかを正しく把握できる。こうした検証を通じて、実行した施策の効果を客観的に評価し、その知見を次の戦略に活かすというプロセスを定着させることが、PDCAが回らないという障壁を乗り越えるための鍵となる。
まとめ
企業ブランディングの実行フェーズを成功させるには、本稿で解説した3つの障壁を乗り越えること、すなわち(1)目的から逆算した適切なKPI・目標水準の設定、(2)企業広告の特性を踏まえた施策立案、(3)定量的な施策の効果検証を組み込んだPDCA体制の構築、が重要となる。そして、この土台となるのが、方針策定フェーズにおける明確な「目的」と「目指す姿」であることは言うまでもない。
テクノロジーの進化等によって、生活者や企業を取り巻く環境は大きく変化している。この変化の中においても、自社の進むべき方向性を見失わず、企業ブランディングを成功へと導くために、本稿が少しでも役立てば幸いである。
本稿は、野村総合研究所(NRI)のマーケティング戦略コンサルティング部が、これまでのコンサルテーションを行った実績をもとにまとめたものです。当部が主催する「消費者マーケティングデータ研究会」の次回開催情報はこちらから。
