分析の正体──「縦と横」で比べ、差から考える
では、分析とは何か。私は、分析=比較だと捉えています。何かと何かを比べて差分に気づき、その差分の理由を考えること。比較対象があって初めて、物事を深く思考できます。
前項の家の例に戻ると、隣家との比較で屋根の傾きが20度違ったと仮定します。その差分に気づき、「なぜ隣同士で20度も違うのか?」と疑問を持つ――これが分析の第一歩です。「単なるデザインの好みだろう」と片づけてしまうと、そこで思考は止まってしまいます。差分には必ず理由があると考えるのが、マーケターにとって重要な姿勢です。日照権や積雪、風向といった背景要因があり得る――そうした仮説に対して「本当か?」と検証しにいくことが分析です。
分析の問いは大きく2つに集約できます。
- 他に要因はないのか(他の仮説はないか)
- この要因は本当にそうなのか(仮説は妥当か)
差分を見てこの2つの問いを持つ。差分に着目し、仮説を持って検証する。これが分析の基本姿勢です。
マーケティングにおける数値の比較は、原則縦と横です。多くのモニタリングシートは、縦(商品・チャネルなど)×横(月・週など)のマトリクスになっていますが、その縦と横に何を置くかが肝になります。たとえば――
- 縦=商品別:どの商品が売れているか/どれだけ伸びているか
- 横=月別:前月比・前年同月比はどうか
縦横の置き方が変われば、見える差も変わります。分析=縦横の比較と覚えておくとよいでしょう。
解像度を上げる──“平地”を平地で終わらせない
ここまでの話をまとめると、現状分析とは「前提となる構造=設計図とルール=前提の中で起きている現象を、比較によって明らかにすること」でした。
そして、最も重要なのが解像度です。数値化できるものはすべて数値にし、限界まで現状を詳らかにする。私たちは日常会話では「ちょっと」「だいたい」「多めに」と国語で伝えがちですが、ビジネス、とりわけマーケティングでは数値にすることが決定的に重要です。
重要性をお伝えするため、比喩で補足します。あなたが戦国時代の城主で、敵の大軍が攻めてきているとします。城から外を眺め「あそこは山間の平地だ」とだけ捉え、スピード優位の騎馬隊で出撃を決めた――ところが実際の“平地”は、ぬかるみで足が2〜30cm沈む、草が10〜20cm生えている、石が80〜100個転がっている……。浅い現状分析で立てた打ち手は、実行段階の“想定外”で簡単に崩れます。
大事なのは、平地を平地として捉えたところで終わらせないこと。地表の細かな凹凸まで把握するレベルに解像度を上げることです。Googleマップで日本全図から街区、番地へと落としていくイメージで、構造を俯瞰(ズームアウト)しつつ、障害が見えるところまで徹底的にズームインして調べる。これが、現状分析を正確に行うために必要な解像度です。
私は過去の“しくじり”を振り返るたび、ほぼこの解像度不足で躓いていました。ズームインを途中でやめ、見落とした石に躓いていたのです。比喩で抽象的にお伝えしましたが、ビジネスの現場で見落とさないためには、前提から疑って数値を見ることが大事です。私は現状分析の際に、よく「そもそも」という言葉を使います。これは加工されたデータの裏側にある数値を想像し、「なぜこのような差分が起きているのか」を根本から考えるためです。また、疑問や仮説が生じたときは、ローデータを見にいくことが多々あります。マネジメントであっても、実データやファクトを自分の眼で見ること。マーケティングを担う人にとって重要な姿勢だと思います。
まとめ
まとめると、覚えておいてほしいポイントは2つです。
- 現状分析=「前提となる構造=設計図」と「ルール=前提」の中で起きている現象を、比較によって明らかにすること。
- 必要な解像度=ズームインできなくなるところまで、細部のデータとファクトを把握すること。
この2つを徹底するだけで、次のステップである(2)初期仮説の精度は一気に上がります。戦略の勝率はここで決まると言っても過言ではありません。私の持論―「マーケティング戦略は現状分析が8割」の理由は、まさにここにあります。
次回は、初期仮説の構築と検証について、皆様と一緒に考えていきます。
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