ロート製薬事例:購買データを活用し、顧客理解を深化
リテールメディアの根源的な価値として、「購買データの活用」がある。広告が本当に購買に寄与したのか、実際のデータを用いて検証できるわけだ。pHmediaは広告の効果検証からさらに一歩進み、顧客理解の深化にリテールデータを活用する試みを行っている。3つ目に松居氏が紹介した、ロート製薬の事例を見ていこう。

ロート製薬のスキンケアブランド「Calamee(カラミー)」は、Z世代の肌悩みで上位にあがる「テカリ・皮脂」を軽減する商品だが、ブランドの届けたい提供価値がターゲットに伝わらず苦戦していた。ブランドの価値を再定義する目的で、ドン・キホーテの購買データと買い場を活用し、「需要発掘/探索型のテストマーケティング」を行うことになったという。
具体的なプロジェクトフローはこうだ。
1. 提供価値の探索:POS/IDPOSデータから、Calamee購入者の傾向を分析。ソーシャルリスニングやターゲットヒアリングも組み合わせてターゲットインサイトを深掘りし、提供価値として有効な仮説を絞り込んでいく。
2.表現・切り口の開発:絞り込んだ提供価値の仮説から、訴求の方向性を開発。
3.店頭でのABテスト:2で開発した訴求ポイントがターゲットに響くのか、実際の店頭で検証。2つの訴求ポイントを、それぞれドン・キホーテ5店舗(計10店舗)でテスト。
4.事後分析:実際に商品を購入したZ世代に、N1インタビューを実施。購入者の特徴をより深く分析

実際には、Calamee購入者の約40%がロート製薬ブランドのファン、約10%が韓国のダーマコスメ購入者で占められていることが、購買データの分析から判明。そこで、この2層以外にターゲットを定め、インサイトの分析を行った。分析の結果をもとに、「毛穴対策スキンケア」「ニキビ対策スキンケア」という2つの訴求ポイントを開発し、ドン・キホーテ主要10店舗の各カテゴリに設置されているサイネージ付きのエンド棚「ドンPUSH」でABテストを実施したという。
テストの結果、「毛穴対策」で訴求した棚は、ベンチマークにした施策と比較して、売上が15%アップした。一方、「ニキビ対策」で訴求した棚は売上が振るわなかったという。松居氏は「ニキビ対策の棚は、毛穴対策の棚よりも注目率は高かったですが、売上は振るわないという面白いデータを得ることができました。店頭でいかにコミュニケーションするか、リアルマーケティングの難しさを再認識する結果でもありました」と話す。
また、このプロジェクトで得られた示唆を新商品にも活かし、ドン・キホーテでの展開規模や取り組みの内容をさらに拡張しているそうだ。
単なる「広告メディア」ではない、リテールメディアの可能性
pHmediaの事例から、リテールメディアは、メーカー企業の「ブランディング」「マーケティング」「営業(店頭実現)」といった様々な課題やニーズに合わせて柔軟な設計が可能であることがわかる。リテールメディアは単なる広告媒体ではなく、マーケティングの課題解決の手段となり得るわけだ。
「業界では、未だに“バズトレンド”のようにリテールメディアが語られている節がありますが、私はリテールメディア=お客様と商品が出会う場を作るものであると考えています。PPIHだけでなく、他の小売企業様にも、その小売にしかない魅力や特徴、体験価値があり、それがきっとリテールメディアに反映されているはずです。pHmediaは、競合の小売企業様とも連携し、切磋琢磨しながら、このリテールメディアという市場を盛り上げていくことで、メーカー企業様への還元価値を拡張していきます」(松居氏)

生活者のニーズが分散し、マスメディア一発で商品が動く時代ではないからこそ、購買データを活用し、ターゲットが商品を手に取る瞬間にアプローチできるリテールメディアの重要性が高まっている。MarkeZine Day 2025 Retailでの松居氏の講演は、単に出稿するだけでない、ブランディングにもマーケティングにも寄与するリテールメディア活用の視点を学べるものだった。
