生成AIの情報は「二次情報」、これからの消費者理解の注意点
MZ:消費者インサイトの調査にAIを活用する企業も増えています。AI時代において、消費者理解で注意すべき点はどこにあるのでしょう。
小口:生成AIが生成する情報は、どこまで行っても「二次的に生成された情報」であることを忘れてはいけません。生成AIが言っていることは「事実」ではなく、あくまで「推論」に過ぎない面もあります。無論、消費者に関するデータ(事実)を収集するタイプのAIもありますが、消費者インサイト調査をすべてAI任せにしてしまうと、長期的に企業のマーケティングにネガティブな影響をおよぼす面もあるのではないか、と考えています。
また、かねてより企業のデータやAIの活用は個人情報の取り扱いに関する懸念と隣り合わせでしたが、リスクはそれだけではないでしょう。たとえば、消費者に誤解を与える誤って生成された情報を発信してしまう場合もありますし、バイアスのかかった情報で組み立てられたマーケティングを行った結果、意図しない損害を与えてしまう場合もあるかもしれません。
加えて、消費者の主体性や多様性が失われていくリスクを懸念する声もあります。本来、消費者が自分の頭でフラットに考えて選択していたものを、AIが介在することによってそもそも消費者自身が望んでいたものとは異なる意思決定に誘導されてしまう可能性も無いとは言い切れません。
総務省・経済産業省から、AIを提供・運用する事業者が守るべき基本的なルールが示された「AI事業者ガイドライン」が公表されましたが、消費の最前線に立つマーケターだからこそ、その影響やリスクにも十分に配慮していく必要があります。
AI時代こそ、企業が大切にすべき「生の声」
MZ:今お話しいただいたことは消費者がAIに「思考」や「判断」まで丸投げしてしまうリスクですね。一方で、膨大なデータを収集・整理するための「分析の足掛かり」としてAIを活用することは、人間にしかできない「深く考える時間」を確保するためにも有効な手段と言えるでしょうか。
小口:その通りだと思います。むしろ、そこは明確に使い分けるべきです。AIに「処理」を任せることで、人間はより本質的な「解釈」に時間を割けるようになりますから。その前提に立ったうえで、企業が改めて大切にすべきなのが消費者の「生の声」です。
指示の出し方にもよりますが、一般論として生成AIは多数派の意見から収れんされた、平均的で中庸な回答をする傾向があります。その回答だけを「正」としてしまっては、顧客の本音を見逃しかねません。今こそ実際の売場に足を運んだり、消費者などが発信したSNSの投稿を通して生の声を収集したりといった地道な行動で、平均値から外れたニッチな意見も拾い直していくことも必要です。
MZ:対AIの対策が盛んに講じられる昨今ですが、逆説的に生身の顧客とのコミュニケーションが重視されていくのですね。
小口:ええ。今後コマース領域にAIがますます進出し、直接的な顧客接点が希薄になっていく可能性があるからこそ、企業はオフラインコミュニケーションや、SNSなどAI以外のオンラインチャネルも大切にすべきでしょう。
また、企業がAIをマーケティングで使う際は、社会的責任として透明性・公正性を考慮すべきです。たとえば、AIがまとめ買いを過剰に推奨したり、買い急いでいる消費者に対して不当に価格を吊り上げて提示したりしていたら、いつか消費者の信頼低下やブランド毀損にもつながってしまいますよね。
MZ:それは消費者側も、「AIに委ねすぎなければよかった」と後悔するかもしれませんね。
小口:だからこそ、「消費者が自分で決める余地」を残すことが重要です。AIのレコメンドを受けるにしても、最終的に選ぶのは自分。AIを頼りながらも、消費者自らがリソースを投下して調べ、悩み、選択するプロセスを体験することで、「納得感」や「愛着」が醸成され、企業のブランド力は高まっていくのではないでしょうか。

