マーケターに必要な4つの「みる」と「問い」
MZ:では、一人ひとりのマーケターやリサーチャーはどのようにデータやAIを活用し、どのような視座や視点で消費者のインサイトを捉えていくべきなのでしょうか。
小口:4つの「みる」が重要だと考えます。
1つ目の「見る」は、鳥の目で市場を俯瞰すること。マーケット全体のデータ、売上データなどを見て、たとえば「消費者は、なぜその商品を手にとらないのか」「競合の商品をリピート購入し続けるのか」といった、解くべき「問い」を考えていきます。
2つ目の「観る」は、虫の目で実際の売場を観察すること。店頭に出向いたり、購入者にインタビューやヒアリングをして声を拾い上げたりしながら、たとえば「消費者から見て、パッケージが棚で埋もれてしまって選びづらいのではないか」「ケースの持ち歩きがしやすいからではないか」など、「問い」に対する理解を深めていきます。
3つ目の「視る」は、虫の目で消費者の行動の背景を探ること。顧客一人ひとりを観察したり、デプス・インタビューで直接話を聞いたりして、たとえば「ケースの持ち運びのしやすさの理由は、フックの形状にある」など、「問い」を解くための鍵を見つけだします。4つ目の「診る」は、鳥の目で俯瞰しながら、データを使って、自分が立てた「問い」を評価・検証していきます。
今後も消費者を理解していく上でこれら4つの軸が重要であることに変わりありませんが、AIと人間の役割分担はより明確になるのではないかと考えています。AIに任せるべきはデータ調査や分析、可視化など、主に見る・診る、などの鳥の目の観点ですね。
むしろ、観る・視る、といった「虫の目」の領域は、AIに任せず人間が足を動かしたり、実際に消費者と接しながら「問い」を深めたり、補助的にAIを用いながら、それを解く鍵を自分で見つけ出すプロセスがより重要になるように思います。
また、「鳥の目」の領域も、AIが出力した内容をそのまま受け入れればよいとは限りません。むしろ、人間が経験則を活かして「(出力が)誤っているかもしれない」「偏りがあるかもしれない」といった視点で目を通すことがより大切になります。結局、AIに収集してもらったデータを用いたとしても「(自らの)問いに対して、どのような答えを出すか」を決めるのはマーケターであるべきです。
どんなにAIが発展しても、マーケティングをしているのは人間であり、人間の集合体が企業です。だからこそ、当たり前のことですが、マーケティング・プロセスの結節点に人間がしっかり関与しなければ、消費者に対する責任を負うことは難しいのではないでしょうか。
AI時代こそ“「問い」と「答え」”を見極められるマーケター育成が企業の命題に
MZ:2026年以降、消費者の行動はどのように変化していくと予測されますか。
小口:前提として、物価上昇による慎重な消費態度はしばらく続くと考えています。消費者が熟慮しながら「自分に適したもの」を選ぶトレンドも変わらないでしょう。米国では消費者の買い物での商品選びをサポートするAIショッピングアシスタントの存在感が急速に増していますが、AIはそのような「選択のストレスを下げる存在」として重要度を増していくのではないでしょうか。
MZ:企業は今後、どのようなことを意識すべきでしょうか。
小口:消費者に「自己決定感(自分の意志で、自分にあった商品やサービスを選び取ったという実感)」を持たせることが、ひとつのテーマになるのではないでしょうか。AIに任せすぎず、自分の価値観に沿って能動的に選ぶ体験は、商品やブランドとの親近感・信頼感を生み、ロイヤルティ向上にもつながります。消費者の主体性を奪わない範囲で、AIをどのように顧客接点に導入していくかが、今後多くの企業の課題となるように思います。
MZ:最後に、マーケターへのメッセージをお願いします。
小口:AIを仮説検証の壁打ち相手として活用しながら、思考を深めていくことは有効だと考えます。しかし、AIが提示した材料をもとに問いを立て、その鍵を探しあて、答えを導いていくのは人間です。そして、それらを適切に判断するにも、マーケターとしての知見や経験が必要ですよね。消費者に対する「問い」、そして自社にとっての「答え」を見極め、質の高い決定を下せる人材を育てていくことが、これからの事業会社やマーケティング組織により一層求められていくのではないでしょうか。
本記事は2025年11月の取材をもとに制作したものです。

