AI時代でも体験に勝る学習なし
濵﨑:第二のお題は「AI時代にデジタル変革の推進方法は変わるのか?」です。まずは小野さんのお考えをお聞かせください。

小野:AIの時代になっても変わらないことの一つに「体験こそが新たな物事を理解する近道」というものがあると思います。
当社では経営会議もバイモーダルにしていて、前半30分はモード1的にアジェンダをこなし、後半30分はノーアジェンダで臨みます。2022年11月にChatGPTが公開された際、私は2週間後に開かれた会議の後半30分を使って役員全員の前でライブデモを披露し「これで何ができて、何ができないのか」を理解するための体験を提供しました。まず触ってみることが重要だと考えているからです。
AI時代の人材育成は、考えなければならないテーマだと思います。たとえばプログラミングを学び始めたばかりの社員と生成AIを比較した結果、生成AIのほうが高いパフォーマンスを出すケースは既に見られています。ただ、AIの成果物はレビューが不可欠です。レビュー能力は新人時代の下積みによって培われるため、短期的な合理性だけで判断すると中長期的に活躍できる人材が育ちにくくなります。
濵﨑:なるほど。人材育成においてクレディセゾンで工夫していることはありますか?
小野:当社ではデジタル人材を次の3階層で定義しています。

小野:レイヤー1は外部から来たプロ、レイヤー2は社内公募で手を挙げて総合職からプログラマーやデータサイエンティストにリスキリングした社員、レイヤー3は市民開発者などを含むのですが、レイヤー2の社員がいてくれることをとても頼もしく感じています。彼らは社内の人間関係に対する理解や業務知識を持った状態でデジタル技術を習得しているため、DXを円滑に進める上で非常に重要な働きをしてくれています。育成観点でもリスキリングの好例と言えるのではないでしょうか。
生成AI×ドメインエキスパートで行政の仕事を変える
濵﨑:「AI時代にデジタル変革の推進方法は変わるのか?」というお題に対する井原さんのお考えをお聞かせください。
井原:変わると言うより、変えます。生成AIを使わない選択肢は行政職員の仕事においてもあり得ません。一方で、行政の仕事は間違うことができないため、人の目をきちんと入れて、確認するフローも大事です。その点に関しては、AI時代においても変わらないと思います。
また、生成AIに触れる職員を増やす目的で、東京都と62の区市町村で使える共通のプラットフォームを内製しています。事務職の担当者がノーコード・ローコードで生成AIアプリを作れるような環境です。生成AIで完璧なアウトプットは出すことは難しいですが、50~60%のクオリティのアウトプットは10~20秒で出るため、そのアウトプットをドメインエキスパートがブラッシュアップしていく。そんなやり方ができるよう、GovTech東京が中心となって推進しています。
濵﨑:そろそろお時間が迫って参りました。最後に、お二人から参加者へメッセージをお願いします。
井原:「デジタル変革を推進する秘訣」というテーマに対し、私自身が答えを持っているわけではありません。日々チャレンジを重ねながら、少しずつ前進していくほかない気がします。これからも皆さんと一緒に考えながら、デジタル変革を推進していきたいです。
小野:日本におけるCDOの平均在任期間は2.5年だそうです。在任期間がそれだけ短いとなると、これまでのやり方を否定して、今後進むべき方向性のグランドデザインを描くところまではできても、やりきるのは難しいのではないかと感じます。「スクラップアンドビルドはかえって遠回りである」というのが私の考えです。現在の事業基盤を作ってくれた先人や組織、方法にリスペクトを払い、その良さを全面的に認めた上で、異なる方法をインストールしていく。これがDXの最短ルートだと思います。
濵﨑:お二人とも貴重なお話をありがとうございました。

