MFC 2.0が示すリテール企業の「鍋底」の強化
「MFC(Micro Fulfillment Center)」は、2020年頃の外出自粛で注目を集めた「店舗発・ご近所宅配」のモデルである。当時は来店減少への暫定策として注目され、乱立と淘汰を経てきた。そして今、Amzonが再度、実用段階へと進化させている。
2025年11月にAmazonは、Whole Foods Marketにおけるオンライン注文をロボット配送で処理する新たな物流システムとして、MFCを活用した実験店舗の1号店を公開した。
これは単なる「店舗在庫の宅配自動化」の焼き直しではない。自社の広大なエコシステムをWhole Foods全米600店舗へと持ち込み、生鮮品や医薬品など扱いの難しいカテゴリーも含めて、Amazon上に統合しようとしている。これこそ、「MFC2.0」と呼ぶべき新展開だ。
Amazonが「宅配を開始した」程度の表層的な認知では、本質的な変化を見落とす可能性がある。この動きは日本企業にとっても示唆が大きいため、ポイントを整理して解説していこう。
生鮮品も一般商品も“同一カート”で注文可能に。次なるリテールモデルが現実化
今回の実験店は、既存のWhole Foods店舗の敷地内にMFCを拡張併設する構造だ。米国の多くのWhole Foodsには十分な駐車場スペースがあり(日本における郊外ロードサイド店舗のイメージ)、その一角にMFC施設を増設した形である。
MFCの中核システムはAmazonのAWS上に構築され、Whole Foodsの生鮮・日用品とAmazon.comの一般商品を統合して一括配送、または店頭でピックアップする仕組みとなっている。
ここで1つ目のポイント、「生鮮品と一般商品が “同一カート” で混載注文可能になる」という点に注目したい。これまで、生鮮品はサイトA(例:ネットスーパー)/文具やPC、日用品などはサイトB(例:Amazon)といった具合にサイトを使い分けるのが前提だった。だが、今回の実験店ではその垣根が消えている。「オーガニック野菜の購入」と「日用品の補充」が、一回の注文で完結する。
また、MFCは単なる自社店舗在庫のオンライン受注・配送システムにとどまらず、「フルフィルメント=マーケットプレイス」としての機能を備えている点も重要である。Whole Foodsの店内では扱われない、コーラやケロッグといった量販ブランド品から、Amazon Marketplaceに出品するサードパーティ商品まで、Whole Foodsの取扱カテゴリー“外”でありながら同一カートで注文できるというわけだ。
この本質は、MFCが自社在庫を捌くだけの装置ではなく「開かれたフルフィルメント基盤」として機能することにある。Amazonが提唱する「Store within a store(店舗内店舗)」モデルであり、購買部門間の摩擦を取り除く「Friction-less Shopping」の具現化であり、無限商品棚としての「Endless Aisle(エンドレスアイル)」化の一形態とも言えるだろう。
日本でも「スーパーマーケット(生鮮品)」×「ドラッグストア」×「コンビニ(日用品)」の複合化に向けた企業M&Aや合併は頻繁に見られる。今回のAmazonの動きはその先にある未来像のようだ。
