なぜイベントという手段を選んだのか。対面で行う価値とは
そういった世界観を作り上げたいという想いを持った上で、両社はなぜイベントという手段を選んだのだろうか。
月岡氏が挙げたのは、「オンライン疲れによるリアル回帰」「リアルSEOコミュニティを作る」だ。コロナ禍によりウェビナーが主流となったが、オンラインでは熱量の共有やリアルなコミュニケーションが難しく、真の価値創出には限界があると感じていたという。
また、既存のSEOコミュニティがなくなりつつあった背景からも、SEO担当者たちの横のつながりができるリアルの場でコミュニティの必要性を感じていた。Japan SEO Conferenceの参加は有料としたが、200名のキャパシティに対して2倍以上の申し込みが殺到。多くのSEO従事者のリアルな交流へのニーズが可視化された。
また元木氏は、イベントという手段を選んだ理由について「財務経理部門向けで、ユーザーの声が主体となるAI領域のオフラインイベントがない」と答えた。
経理職はマーケティングや営業と比較して、外部との交流機会が少ない傾向にある。オフラインでの直接対話と懇親会の設定により、経理担当者同士の横のつながりを構築することで、「困っているのは自分たちだけではない」という参加者の気づきと業界内での接点創出を通じて、経理業界全体の変革を促進したいと考えた。
両社とも、目的やイベントの世界観が確固たるものとしてあり、コンテンツ企画や登壇者アサインもそれに沿った形で進められた。富家氏は、「イベント登壇メリットの提示は、ハードルの一つ。講演料ではない、その人に出演していただく理由が問われる」としつつ「主催側のビジョンの有無や温度感の高さは、参加の決め手として大きい」と、登壇者側の目線で語った。
イベント実施の工夫と、課題の乗り越え方
では、実際にイベントを開催するにあたって、実践企業はどのような点を意識し、工夫しているのか。
まず、月岡氏から挙げられたのはイベント全体を通じての熱量とやりきる気持ち、徹底的な準備、そしてリカバリープランの用意だ。集客ではSNS発信など低コストの施策から開始し、最終的には高コスト施策まで段階的に設定しておいて、収支がギリギリ成り立つレベルまでを想定した。結果的に初期段階の施策で集客が完了したため、リカバリープランは不要となったが、事前に準備することで安心感を得られたという。
そして、普段からのSNS活動が重要であると月岡氏。ターゲットクラスターが集まるプラットフォームで深いつながりを構築することの重要性を実感したと強調した。
元木氏も、実施の工夫を紹介。イベントの世界観と照らし合わせたセッション全体の構成を重視し、バックオフィスAIサミットでは4部のセッションおよび懇親会から成る流れを設定。各セッション後の参加者の理想的な状態を、それぞれ明確に定めたのだ。
具体的には1つ目のセッションでは、法令対応やインボイス対応により急増するバックオフィス業務と、人材採用の困難さや労働力減少を踏まえ、一人当たり生産性向上の必要性を提示。続く2つ目のセッションでは、AI導入における組織論や体制構築の重要性を解説し、技術導入と組織変革をセットで考える必要性を伝えた。そして3つ目のセッションでAIによる業務自動化の具体的ポテンシャルを示し、最後のセッションで先駆者の成功事例を紹介するストーリー構成とした。
この論理的なストーリー設計により、参加者の態度変容を促し、必然性を持ってプロダクト体験(デモブース)へと誘導する導線を構築。ベンダーによるポジショントークを避けつつ、必然性から導入効果まで段階的に理解を深める構成が功を奏した。
元木氏の説明を聞いた富家氏は「各セッション後に参加者がどのような状態になってほしいかを明確に言語化することで、セッション内容の方向性がぶれることなく、一貫性のあるイベント設計が実現できる」と述べた。

