2025年、AI自体にヒューマニティが求められる時代になった
──2024年末に取材した際、細田さんは「2025年はAIを活用することで、人間的な方向への進化(ヒューマナイゼーション)が進む1年になる」と予測されていました。実際にこの1年を振り返ってみて、いかがでしたか?
2025年にヒットしたものを振り返ると、AIがこれだけ話題になっている割に、実はAIではない場所からヒットが生まれていることが多かったように感じます。たとえば、万博のようなリアルなイベントや、映画『国宝』のような作品など、人がその場でしか体験できないもの、触れられないものに注目が集まりました。
他方、情報量は増え続け、AIが様々なレコメンドをしてくれるようになったものの、逆に「何を選んでいいかわからない」と迷子になっている人も増えているように感じます。情報が増える分、決断のコストが高まっている。その中で、花王のシャンプー『The Answer』のように、「これが答えなんですよ」と迷いを断ち切ってくれるような商品が支持されたことは象徴的でした。
2025年は「人だからこそ体験できること」や「正解を示してくれる力強さ」に、マーケティングやクリエイティブ業界全体の関心が向かった1年だったと言えるでしょう。
──AI自体のトレンドについては、どのような変化を感じましたか?
個人的に一番注目した現象は、ChatGPTのモデル「GPT-4o(フォー・オー)」から次のモデルに進んだ際に、「keep4o(4oを返して)」運動が起きたことです。これまでは、AIの機能が増えることが進化だと信じられ、受け入れられてきました。しかし、GPT-4oが愛された理由は、機能性以上に「人懐っこくて、何を言っても肯定してくれる」という「性格」にあったのです。
AIでさえ性能より性格が重要になる。それに世界中が気づいた最初のタイミングだったのではないでしょうか。
昨年の予測では「AIの外にあるヒューマニティ」が大事になると考えていましたが、実際には「AI自体にヒューマニティが求められる」時代になってきました。AIに恋愛相談をしたり、手相を見てもらったりする人が増え、AIは単なるツールからパートナー的存在へと変化しています。ChatGPTがチャッピーという愛称で呼ばれ始めたのも象徴的だと感じます。
自動化か、拡張か。ブランドにおけるAI活用の現在地
──ブランドや企業のAI活用においては、どのような動きがありましたか?
大きく分けて2つの流れがあったと思います。1つは「オートメーション(自動化)」。AIがブランドのエージェント(代理人)として振る舞うパターンです。海外の事例ですが、オーストラリアの「チャドストーン(Chadstone)」というショッピングセンターの食品売り場では、食の好みや、食材の制限、人数などの条件を入力するとレシピや献立アイデアを提案してくれるAIが実装されています。一般的なレシピ提案ではなく、今日の売り場で買える食材を使ったアイデアを提案してくれるのがポイントです。こうしたきめ細やかなサポートは優秀な販売員でも難しかったことではないでしょうか。
もう1つは、私たちが「オーグメンテーション(拡張)」と呼んでいる領域です。これは、自動化して人を減らすのではなく、AIによって人の能力や接客の幅を広げるという考え方です。
私たちが京都のMKタクシーと行った「TikTok」活用の事例もそのひとつ。魅力的なキャラクターを持つドライバーさんが穴場を紹介する動画は、わずか数分で15カ国語へ翻訳・配信されました。「その人が紹介するから納得できる」という人間ならではの価値が、AIによって瞬時に国境を越え、世界中へ拡張された事例です。
このように、自動化すべき部分と拡張すべき部分をどう見極めるかが、ブランドマネジメント上の大きな判断軸になってきたと感じます。
