「何人に届くか」という型通りの提案に感じた違和感
MarkeZine編集部(MZ):本日は、王子ホールディングス(以下、王子HD)とオリコムの伴走プロセスから、表面的な指標に踊らされない、届くべき人に深く届けるための「施策設計」の極意を探っていきます。
まず前提として、王子HDではこれまで様々な代理店から提案を受けられる中で、既存の広告提案や一般的な施策に対してどこか「違和感」や「物足りなさ」を感じていらっしゃったとうかがっています。
鈴木(王子HD):これまでも多くの提案をいただいてきましたが、「この枠を使えば〇万人に届きます」といった表面的な数値だけの話や、前年を踏襲したような型にはまったやり方には熱量が感じられず、物足りなさを覚えていました。
当社はBtoB企業ということもあり、広告予算が限られています。150年以上の歴史を持つ重厚なイメージがある一方で、時代の変化や事業方針に合わせて柔軟にアプローチを変えていく企業風土を、いかに魅力的に伝えるかがカギとなります。だからこそ、単に「枠」や「メニュー」を売り込んでくるのではなく、私たちの状況や変化にどこまで親身に寄り添ってくれるかという「姿勢」が、パートナー選びにおいて重要なポイントだと考えていました。そんな中でオリコムさんは、私がどれだけ難しい注文を出しても嫌な顔ひとつせず、約半年間ものあいだ粘り強く対話を重ねてくださったんです。
松木(オリコム):私たちも、最初から特定のメディアや手法ありきでご提案しようとは考えていませんでした。それよりも一番大切にしていたのは、「誰に、どうやって本質的な魅力を届けるべきなのか」という、手法を決める手前の課題をじっくりと掘り下げることです。当時は何度も鈴木さんのもとへおうかがいし、会社に対する熱い情熱や抱えられているモヤモヤを徹底的に受け止めることから始めました。
手法の提示に終始せず、課題の根っこから一緒に悩み抜く。そうした姿勢で、半年間対話を重ねていきました。
半年間の対話の中で見えてきた「本当のイシュー」
MZ:最初のお取り組みの段階では、具体的にどのような課題感をお持ちだったのでしょうか。
鈴木:当社は創業150年以上、製紙業を主として事業を展開してきたことから、どうしても「紙の会社」──とりわけ、新聞や雑誌など情報伝達メディアとしての紙の会社という昔ながらのイメージが一般的に残っています。上の世代にはよく知られている一方で、若い世代での認知度の低さが課題でした。加えて、内定辞退が続いていた時期もあり、「若年層向けの施策を早くやらなければ」という焦りがありました。
そのため、採用ターゲットである若年層において、「森林資源をベースに多角的な事業を展開している」という認知を獲得し、王子HDに対して前向きなイメージを持ってもらえるような施策を求めていました。しかし、当初は課題の解像度も粗く、漠然と「大卒向けに交通広告でも打とうか」という程度のイメージしか持てていませんでした。
松木:そこから半年ほど対話を重ねさせていただく中で、王子HDさんが本当に困っていらっしゃるのは、いわゆる大卒採用だけではなく、「全国の工場を支えている多くの地方の高校生や高専生までを含めた若年層」のリクルーティングだという本質的な課題に辿り着いたんですよね。そこからターゲットの解像度が一気に上がっていったのを覚えています。
鈴木:そうなんです。対話を重ねる中で、当時の私たちが本当に向き合うべき課題は、工場を支えてくれる各地の地元の高校生や高専生へも丁寧にアプローチすること、というイシューが見えてきました。
「認知を取りたい」という気持ちはもちろんあったのですが、既存の堅いイメージがあるからこそ、知ってもらうだけでは足りない。「面白い会社だな」「すごい会社だな」「こんなことまでやっていたのか」と、若い方々に思ってもらえるような見せ方をどうつくるか──そこを何度も粘り強く話せたからこそ、自分たちが今本当に向き合うべき課題に気づくことができたんです。
クライアントの本音に共鳴し、辿り着いた広告手法とは?
MZ:ターゲットが「地方の高校生や高専生」と決まってからも試行錯誤が続いたそうですね。
鈴木:いろいろとご紹介いただきましたが、どれも決め手に欠けました。それでもオリコムさんは諦めることなく、何度も足繁く通ってくださいました。私たちは広告のプロではないので、一方的に手法を説得されるのではなく、知らない視点を教えてもらいながら一緒に悩み抜いてくれる関係性がありがたかったですね。
私たちのちょっと青臭い情熱といいますか、「実は世の中にこう見られたいんだ」という本音の部分に対しても、松木さんは同じ目線に立ち、むしろ一緒に楽しんで受け止めてくれている感覚がありました。
松木:何度もお話しする中で、鈴木さんから「実は裏テーマは『世直し』なんです。紙や森に興味・関心を持ってもらい、正しい理解につなげたい」という言葉が出てきた瞬間があったんですよね。その情熱に猛烈に心を打たれました。

松木:単に一方的なメッセージを打ち出すのではなく、「届けるべき人に、届く場所で深く響く方法」はないかと模索し続けました。そうして最終的に行き着いたのが、若者が自発的に参加して企業の姿勢に触れられる「音声コンテンツ(ラジオ×クイズ企画)」というアプローチだったんです。
リーチ数ではなく「伝わり方の質」が生んだ確信
MZ:王子HDが「音声コンテンツ(ラジオ×クイズ企画)なら自分たちの想いが届く」と確信できた決め手は何だったのでしょうか?
鈴木:ラジオは「見るメディア」ではなく「聴くメディア」なんだ、ということを改めて教えてもらった時、率直に「新鮮で面白いな」と思ったんです。
ラジオはテレビと比べると古いメディアと思っていたんですが、番組ごとに属性がはっきりしていて、若年層だけが聴いている番組もあることも教えていただきました。
地方の高校生や高専生にどう届けるかを考えたときに、テレビCMで15秒間「王子HD」と伝えていくことにも意味はあると思っていますが、それだけでは心に残らないだろうなと。聴くメディアであるラジオなら、もう少し時間を使って伝えられるのではないか、という話になりました。

鈴木:正直、単純なリーチ数や聴取率といった数字だけで評価していたら、この提案は絶対に選んでいなかったと思います。中高生から圧倒的な支持を集めるラジオ番組を軸に、「全国の数万人の高校生に深く刺さる、伝わり方の質」を提示されたとき、思わず膝を打って「今日の提案が一番良い!」と口にしていました。私たちの想いと、メディアが持つ熱量をどう結びつけるか──その文脈の設計が見事だったんだと思います。
【関連リンク】
王子ホールディングスが若年層との対話として展開した音声コンテンツ施策の特設サイトはこちら: TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK! 森林部」
松木:今回のイシューの場合、王子HDさんの想いを単純にメッセージとして詰め込むのではなく、若い世代と対話するように届けられる形はないかと考え抜いた結果です。森林に関連したクイズという参加型の仕組みを取り入れることで、王子HDさんの多角的な魅力や事業の背景を、楽しみながら知ってもらえるアプローチに辿り着くことができました。
抽象的な「想い」も形に。企業の未来をともに拓くパートナー
MZ:未整理な状態から一緒に最適解を作り上げた今回のプロセスを経て、王子HDにとってオリコムはどのような存在になりましたか?
鈴木:私たちは広告のプロではないので、抽象的で、時には少し無茶な要望や漠然とした想いを投げてしまうことも多いんです。ですが松木さんはそれを決して投げ出さず、プロとしてきちんと噛み砕いて形にしてくださいました。
一方的に説得してくるのではなく、同じ目線に立って対等に議論してくれた。だからこそ、心から信頼できる相手だと思えたのだと感じています。

鈴木:まだ形になっていない構想もたくさんあって、たとえば「私たちが事業をやればやるほど(≒紙をつくればつくるほど)森が元気になる」といった、私たちの事業の本質を伝えていきたいという密かな野望もずっと抱いているんです。
パネルで説明してもなかなか届かないような深い背景を、無理に大きなコストをかけずとも、しっかり心に届く形へ昇華させる。そのためには、私たちの熱いこだわりや本音にどこまでも付き合ってくれるパートナーが必要です。オリコムさんは、まさにそんな私たちの想いを粘り強く受け止め、一緒に形にしてくれるかけがえのない存在だと感じています。
「小走りする巨象」として、誰も見たことのないコミュニケーションを創る
MZ:両社が描く今後の展望と、同じように課題に悩むマーケターの方々へのメッセージをお願いします。

鈴木:当社はいわゆる“巨象”と呼ばれるような企業規模の会社ですので、普通なら動きが重くなりがちです。ですが大企業でありながらも、時代の変化に合わせて素早く動ける「小走りする巨象」を目指したいんです。
そのためには、前例の踏襲にとどまらず、新しい挑戦を一緒に楽しみながら走ってくれる存在が欠かせません。オリコムさんのような心強いパートナーとともに、これからも世の中がワクワクするような発信を続けていきたいですね。
松木:広告の仕事は、「どのような手法や媒体を選ぶか」という話になりがちですが、本質は常にその手前にあります。課題をどう定義し、届けるべき想いをどんな文脈で設計するかこそが、マーケティングの本質だと思うんです。
今回のように「自社の課題がまだ整理できていない」という抽象的な段階からでも、膝を突き合わせて泥臭く伴走し、お客様の情熱を一緒に形にしていくスタンスを大切にしています。
どのような企業様にも、きっと言葉にしきれていない「本当はこう発信したい」という本音があるはずです。そこさえ共有していただければ、あとはプロとして、一番深く届く形を導き出していきます。
オリコムには「世の中に一つでも多くの『良い関係』を創造する」という理念があります。お客様の本音と真摯に向き合い続けることで、その企業ならではの、世の中との新しい出会いを創り出していきたいですね。

