クラウドを理解するためのキーワード
実はクラウドにはパブリックとプライベートの二種類があるのだが、多くの人がイメージしているのは、システムを複数のユーザーで共有する前者の方だろう。その特徴は「ITシステムは所有から利用へ」というフレーズに表わされている。従来はITシステムを自社のサーバールームやデータセンターで所有していたが、パブリック・クラウドでは外部のプロバイダーからサービスとして提供を受けるというわけだ。代表的なプロバイダーにはAmazon、Google、salesforce.com、マイクロソフトなど有名IT企業がある。
クラウドで提供されるサービスは主に三種類。まず、ソフトウェアをサービスとして提供するSaaS。従来のASPと同じレイヤーと考えられるもので、Googleのメールのようなサービスが該当する。2つめはプラットフォームを提供するPaaS。マイクロソフトが2010年1月からスタートさせるWindows Azureなどが該当する。3つめはハードウェアを提供するHaaSだ。こちらはAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)が代表例だ。パブリック・クラウドと従来の自社運用を比較すると、HaaS<PaaS<SaaSの順にインフラ管理が不要になる。
パブリックの技術的な特徴は3つある。まず、必要な時にスケールアップ・スケールアウトできるプロビジョニング機能。次に、コストの最適化を図ることができる従量課金。そして、それらの柔軟な運用を支える仮想化技術だ。
では、パブリック・クラウドを導入することによって得られるメリットは何だろうか。まずは、投資対効果の高さが挙げられる。初期費用を最小化し、ビジネスサイズに合わせて小刻みに拡張ステップを設定できる。また、同一のクラウドサービス提供事業者がシステムをフルカバーしているため、対応スケールを広げやすいことも見逃せない。
もちろん、デメリットもある。例えば、専用サーバーと比較した場合、信頼性(品質)の問題があげられるだろう。稼働率が99.9%の場合、一見信頼性が高いように思われるが、年間で換算すると9時間程度停止することになる。99.95%でも4時間半ストップする。必ずしもオールマイティな存在でないことも把握しておく必要があるだろう。
クラウド導入における見極めポイントとは
ここまで述べてきたパブリックと対比されるのが、企業内のクローズドな環境内にクラウド・コンピューティングの仕組みを導入するプライベート・クラウドだ。すでにソニーやHPなどが活用を始めているが、ITインフラを所有するという意味では従来と変わらない。メリットは仮想化技術によりサーバーが統合され、効率化されるのでコストが下がることだ。当然、電力消費も下がる。
パブリックとプライベートのクラウドを比較すると、コストと管理可能な範囲が反比例する。江戸氏が注目ポイントとして強調するのは「メリットとデメリットを把握した上で、最適な運用形態を選ぶこと」だ。リソース、品質、コストのバランスのどれを重要視するかで見極める。クラウド以外の選択肢もあり得ることも忘れてはならない。
クラウド時代になってITインフラの効率は向上したが、ユーザーにフレキシブルな対応を提供するために、人が介在することの重要性が減るわけではない。江戸氏は最後に「スカイアーチネットワークは、どのような形態のインフラでもフルマネージドで運用を代行できる。まず相談してほしい」とアピールして講演を終了した。