ソーシャルメディアのサイト内検索と、検索エンジンンの一般検索の関係性
ただし、ここで、ソーシャルメディアのサイト内検索はどういう位置づけになるか、ということが問題になる。
ソーシャルメディア自体の数が増え、複数のソーシャルメディアを利用するユーザーが増えると、結局は各サイト内で検索するよりも、これまでどおり検索エンジンを用いて一般検索した方が効率がいい、という状態に落ち着くことが推測できる。その方が、複数メディア内の情報を横断的に、一括で検索できるからだ。
一般的に、ソーシャルメディアは検索エンジンよりも参入障壁が低く、比較的容易に開発できる。そのため、成功するか失敗するかは別として、次々と新たなソーシャルメディアが誕生している。Twitterが話題になり始めたころ、アメブロに付随した「アメーバなう」、mixiの機能に加わった「mixiボイス」、フジテレビの「イマつぶ」など、類似のサービスが乱立している様子を見ても参入障壁が低いことが分かる。
こうして誕生した各ソーシャルメディア内では、先述のように膨大な情報が生成・蓄積される。そうなると、ある情報を調べようとするとき、わざわざ各々のソーシャルメディアにアクセスしてサイト内検索を繰り返すより、最初から検索エンジンで一般検索し、複数メディア内の情報を一括で調べた方が効率がいい。

また、技術的に考えても、ソーシャルメディア運営の延長で開発したサイト内検索と、検索エンジンの開発を専門的に行っている企業の検索エンジンとでは、ユーザーにとっての検索結果の満足度に差が出てしまうことは明らかである。
そのため、実際にFacebookは、2008年にMicrosoftの検索サービス「Live Search」(2008年当時)を統合している。(参考情報:Facebook,Microsoftの検索サービス『Live Search』を統合)
「超える」か「超えられる」か
われわれが「超える」「超えない」と言うとき、次のようなプロセスを経ていることに留意したい。
つまり、観察対象の一部の要素を抽出して指標化し、その指標において上か下かを見ているにすぎない。例えば、「AがBを超える」というとき、AやBが持つさまざまな要素のうち、1つの側面だけを取り出して数値化し、それを比較したうえで判断しているのであり、AやBが持つすべての要素を比較しているわけではない。
「TwitterやFacebookがGoogleを超える」という判断も同様である。この議論でよく持ち出される指標は、「ユニーク・ユーザー数」「ユーザー滞在時間」「トラフィック数」「ページビュー数」である。しかし、情報空間における役割・機能が違うものを、同一の指標で比較するのは無理がある。ここからは、ソーシャルメディアと検索エンジンとを同一の指標で比較してしまう際、盲点になっていることついて述べていきたい。
「ユニーク・ユーザー数」で比較する盲点
ソーシャルメディアは「ネットワーク外部性」【注】が存在するメディアである。ネットワーク外部性とは、例えば、電話や電子メールのように利用者の数が増えれば増えるほど、利用者一人当たりのメリットが増大する仕組みを指す経済学用語である。
【注】「ネットワーク効果」「バンドワゴン効果」ともいう。ネットワーク外部性の詳細はこちらへ
仮に、電話や電子メールが世界で自分一人しか使えないとしたら、誰とも連絡がとれないため、これらの機能にメリットを感じない。しかし、電話や電子メールを使える人が2人、3人と増えるにつれて、連絡がとれる相手は増えるため、徐々に電話や電子メールの機能にメリットを感じるようになる。さらに、ネットワーク外部性によって利用者が増えるにつれ、一人当たりのメリットが増大していくことから、ますます新たな利用者が増える好循環も発生しやすい。
ソーシャルメディアにもネットワーク外部性が存在する。TwitterやFacebookを世界で自分一人しか使っていなかったとしたら、利用することにメリットを感じるかどうか、ということを想像してみるとよく分かるだろう。
これに対し、検索エンジンは特にネットワーク外部性が存在しない。一人で利用しようが、大人数で利用しようが、検索することで得られるメリットは基本的に変わらないのだ【注】
【注】ただし Q&A形式のソーシャル検索(『人力検索はてな』や『Aardvark』など)ではネットワーク外部性が存在する。しかし、ここではソーシャル検索ではなく一般検索について述べている。ちなみに後に述べるように、ソーシャル検索によって生じた情報は、いずれ一般検索の検索対象へと回収(包摂)されることになる。