楽天トラベルのチャネル戦略から学ぶ“ユーザーに最も近い場所”とは
楽天トラベル株式会社 齋藤氏からの「Webビジネスの時代に、電話によるコミュニケーションは必要ない・古いなんて思っていませんか?」という問いかけから講演ははじまった。
楽天トラベルは、宿泊から海外宿泊へ、さらに航空券や高速バス・レンタカーへと、取り扱う商品のバリエーションが増加している状況だ。それに連動して顧客チャネルの対応もPC・モバイル・電話・スマートフォンへと拡充しているという。
興味深いのが、PC・モバイルと、先にオンライン予約から始まり、サービス開始から12年後にコールセンターを開設し、2010年には『Callクレヨン』という“ネットと電話を融合させる”クラウド型のサービスを導入している点だ。「ユーザーが求めるチャネルの多様化に合わせて、ユーザーに近い場所にいるべきだと考えている」(齋藤氏)
ソーシャル時代のマーケティングツールとして電話に注目
国内宿泊の予約方法に関する調査の結果、ネット予約が59%である反面、30%のユーザーは依然として電話予約や来店など、ネット以外で予約をしていることがわかった。
この結果から、インターネットで宿泊先を探した後、予約は電話で行うといったパターンが想定できる。楽天トラベルでは、この30%に顧客拡大の余地を見出し、Webと電話の連携プロジェクトとして、『Callクレヨン』の試験導入を決定した。
『Callクレヨン』の導入は、楽天のグループ企業であるFUSIONとTIS株式会社からの提案によるものだ。楽天トラベルでは、本格導入の前のテストとして、楽天トラベルのモバイルサイト内の予約ボタンの下に「電話で予約」というボタンを新たに配置。
ここから電話をかけると、オペレーターのPC画面に、ユーザーが電話をかける直前に見ていたページが自動的に表示され、スムーズに予約が進むというわけだ。
「電話の露出を増やすことで、モバイルサイト経由の予約率を落としてしまい、オペレーターコストがかさむだけという結果にはならないか、という懸念があった。しかし、モバイル予約率に変化はないどころか、逆に増える結果となった。さらに、今まで予約直前に落としていたドロップユーザーを取り込むことができ、 “電話予約にはまだまだ拡大の余地がある”という仮説が、証明できたと言えるだろう」と、齋藤氏はその成果を明かした。
今後のコールセンターとしての取り組みについて、コールセンターでの取扱商品の拡充や、Web・電話連携対象商品の拡充に加え、マーケティングツールとしての可能性について、齋藤氏は次のように語った。
「数値に基づいて『電話で予約』ボタンを出し分け、電話導線の最適化を図っていくことも考えている。電話であれば、個々のお客様の嗜好に基づいてパーソナライズを行うこともできるだろう。“ファン”を増やすツールとして電話を活用することで、新しい顧客接点作りにチャレンジしていきたい」。
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今こそ“電話”を再発見する
講演後半では、TIS株式会社の岡部氏によって、『Callクレヨン』のマーケティング活用事例が披露された。
「Webマーケティングは成熟期を迎えており、オンラインの施策だけでは対昨年比の伸び率を確保しにくくなっている。新たな顧客層獲得のためには、新たなチャネル戦略が必要だ」(岡部氏)
また、長引く不況下において、企業は今まで以上に『顧客』に寄り添い、信頼を勝ち取る必要に迫らせている。
「顧客と積極的にコミュニケーションをとることで、顧客を感動させ、ファンになってもらうことで、リピートへと繋げる」という、ライフタイムバリュー重視のアプローチについて、岡部氏は語る。
ここで鍵となるのが、スマートフォンのシェア拡大による、ユーザー行動の変化である。スマートフォンを持ち歩くようになったユーザーは、いつでもどこでもリッチな情報を持ち歩くことができる。
「スマートフォンは、いわばPCと電話を合わせて携帯しているようなもの。ユーザーがスマートフォンに移行しているのであれば、企業もこれに合わせてスマートフォンの特性を生かしたコミュニケーションにチャレンジしなければならない」(岡部氏)
デジタルとアナログのコラボレーション『Callクレヨン』
ここから、楽天トラベルの『Callクレヨン』の取り組みではどのようなシステム連携を行ったのか、見てみよう。
ユーザーがモバイルサイトの「電話で予約」ボタンを押すと、自動的に独自の技術であるPhoneCookie®の生成が行われ、コールセンター向けシステムと連動して、オペレーターに電話が繋がる。
その際、オペレーター側のPCにはユーザーと同じ画面が表示されているため、選択した宿泊施設情報や宿泊条件などを瞬時に把握した上で、ユーザーと会話できるという仕組みだ。
Webサイトの情報をコールセンターに引き継げるPhoneCookie®を使えば、ユーザーID・電話番号・検索条件・URLなど、これまで口頭で確認していたユーザー情報を自動的に入手できる。
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『Callクレヨン』を活用した新たなマーケティング例
では、楽天トラベルの例以外に、どのような活用方法が考えられるのだろうか。以下に例を示していく。
位置情報を活用したサービス展開
モバイルで取得できる最も特徴的なものとして、位置情報が挙げられる。馴染みのない土地で、サービスを受けたいときに「今どこにいますか?」と聞かれて、困った経験は誰しもあるのではないだろうか。
「位置情報からユーザーの位置を瞬時に特定できれば、保険のロードサービス・宿泊施設紹介・近い飲食店の紹介など、様々なシーンで質の高いサポートを提供することができる」(岡部氏)
他にも、警察や消防署が国を挙げてこのシステムを導入してくれれば、今回の東日本大震災のような災害が起きた時に、ひとりでも多くの救助に繋げることができるかもしれない。
電話によるコンシェルジュサービス
PhoneCookie®で取得したセッション情報を活用することで、受け身のカスタマーサポートだけでなく、コールセンターでPUSH型の商品提案を行うことも可能だ。
例えば、ファッション系ECサイトや家電販売、結婚式場の相談など、ヒアリングの手間と時間を省きながら、ユーザーの嗜好に合わせたアップセルが期待できる。
行動分析活用
これまでのWebマーケティングでは、アクセス解析ではじき出された数字を元に、仮説を立ててサイトのチューニングを行ってきた。
しかし、これに加えて『Callクレヨン』を活用すれば、サイト内の分析だけでなく、電話で取得したお客様の声を活かしながら、今まで分析できなかったところまで、分析することができるようになる。
例としては、ドロップ率の高いページに「電話をかける」ボタンを配置しておき、そこから電話をかけてきたユーザーに、どうして電話を選んだのか、というアンケートを取る。
すると、文言が間違っている、ページの説明がわかりにくいなど、数字だけでは把握できないチューニングポイントが見えてくる、という。「デジタルとアナログのデータを組み合わせることで、従来は拾えなかったサイトの問題も鋭くキャッチすることができるようになる。2つの側面からサイトを分析するPDCAをうまく回して、ユーザーのニーズに最適化したサイト運用をすることが大切だ」と、岡部氏は語る。
電話の導入でROI向上は導きだせるのか?
いくらマーケティング活用できるからといって、電話ボタンをWebサイト上に置くと、本来Webで完結するはずの顧客まで電話に流れてしまうのではないか、という懸念を抱くのは自然だろう。
けれども、楽天トラベルの事例からもわかる通り、電話ボタンを目立つ場所に置いても、モバイルで完結するユーザーは、モバイルサイトで予約をし続け、全体的な売上も成長を遂げた。つまり、電話で相談したいユーザーや、電話を好むユーザーを、これまでずっと逃していた、ということだ。
ROIの観点から見ても、1回の単純な利益率ではなく、ライフタイムバリューを換算すれば、コストの投下価値は十分にあると言えそうだ。
岡部氏は「ユーザー主導の時代に、ユーザーが企業へアプローチするルートをコントロールすることが、はたして得策なのだろうか? むしろ、十分な選択肢を用意してユーザーのアクションを受け止めるべきだ」として、本講演を締めくくった。
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