スマフォ浸透は無視できない勢い。スマフォ対応が迫られる企業サイト
スマートフォンが着実に浸透してきている。日経BPコンサルティングが7月に発行した調査では、スマートフォン保有者の割合を9.5%と推定。前年調査の5%からほぼ倍増したと伝えている。また2011年9月の携帯電話・PHSの出荷数を見ると、全体の41.3%がスマートフォン。この勢いはまだ止まりそうにない。
「ここ最近のスマートフォンの伸長を考えると、あと2年もすればシェアもアクセスもかなり増えていることは間違いない」と語るのは本田技研工業株式会社 日本営業本部 営業開発室 商品ブランドブロック主任の深山寛泰氏(写真右)。
honda.co.jp全体の企画・運営を任されている深山氏は、PCとフィーチャーフォンに加え、スマートフォンのことも考慮して、サイト運営の最適化・効率化を図るようにする必要があると考えた。
スマートフォン対応を考えた時、課題として浮上してくるのは動画コンテンツの配信方法。iPhoneはFlashに対応していないため、PCサイトでよく用いられるFlash形式での動画配信が使えない。
深山氏はHTML5を使った配信を検討したが、アクセス解析を分析すると、ホンダの自社サイトはお昼休みに会社からアクセスしていると思われる訪問ピークがある。しかし、企業が社員に貸与している端末はHTML5未対応の旧式のものが多く、ホンダにおいても同様だった。また、Youtubeなどの動画配信サービスに対してアクセスを禁止している企業も少なくない。
そこで深山氏は、オリジナルの動画を1本用意すればPC、フィーチャーフォン、スマートフォンなど、あらゆるデバイス向けに動画を最適化して配信してくれる動画配信プラットフォーム「Brightcove Video Cloud」の導入を決意。
7月に同社動画ポータルサイト「Honda Movie Channel」をリニューアルしたところ、動画配信にかかわる運用工数・費用の削減、PV数の増加、事業部門などへのフィードバックに使える動画視聴データの取得といった成果が表れたという。
動画の導入を進める企業サイト。けれど、スマフォへの対応は?
「リーマンショック以降、広告宣伝費が限られている中で、テレビCMを配信できる枠が少なくなってきました。CMを1本作るには、かなりの投資が必要になります。ホンダとして伝えたいメッセージをコンパクトにまとめたCMをせっかく作ったわけですから、テレビで流すだけではなくて、自社サイトでも流せるようにしたいと考え、動画配信に力を入れてきました。
動画はそれ以外にも、カーディーラーに来ていただいたお客様に、自社製品をより深く理解していただく目的にも使えます。カタログ情報を動画でリッチに伝えることができるのです。ですから、企業活動や製品のことを理解していただくための動画素材も、自社サイト上に用意しています。あとはエンターテインメントとしても動画を活用しています。自社サイトを訪問してくれた方に楽しんでいってもらうためのものですね」(深山氏)
深山氏が語ってくれたのは、ホンダが企業サイトで動画を活用している理由。ホンダ以外にも、同様の目的から動画を導入している企業サイトは少なくないはずだ。けれど、深山氏が数カ月ほど前に調査したところ、動画を持っていてもスマートフォン対応できていない企業サイトがほとんどだったという。
PCサイトのまま再生されない、あるいは再生できてもスマフォ向けにページサイズが最適化されておらず再生ボタンを押しにくい、といった問題を露わにしたままだったのだ。
動画導入済みの企業サイトの中でも、いち早くスマフォ向けにサイトと動画を最適化したことで、ホンダのサイトにはどのような恩恵があったのだろうか。詳しく掘り下げていこう。
ただスマフォ対応するだけでは手間が増える。効率的な運用体制を築くには
スマフォ向けに動画配信を最適化する。言うのは簡単だが、実現方法をよく考えておかないと、運用の手間が増えてしまう。
リニューアル前のホンダの場合、PCではFlash形式で動画を配信。フィーチャーフォン向けにはASP型の外部サービスを使い、携帯端末ごとに最適化して配信するようにしていた。
「PCとフィーチャーフォン用にそれぞれ動画を作成していたわけですが、エンコード等の作業を2本分並行して走らせていました。そこにただスマフォ用の動画を追加しては、2本分の手間が3本分に増え、運用が非効率になってしまいます。どうにかしてワンストップで、効率的に動画配信できる体制を作れないか。将来に向けて考えていく必要があると思っていました」(深山氏)
それがBrightcove Video Cloudを入れたことで、動画を一元管理できるようになった。それぞれのデバイス向けに動画を用意しなくても、オリジナルの動画を1本アップしさえすれば、それで作業は完了。あとは自動でエンコードを済ませ、配信先のデバイス環境に応じて最適化して動画配信してくれる。
さらに、動画活用の自由度も増した。以前は「このページにもサイズを変えて同じ動画を載せたい」と思った時には、サイズを指定して別途エンコードの作業を業者に依頼する必要があった。Brightcove Video Cloudの導入後は、業者への依頼が不要に。タグを発行して埋め込むことで、好きなページに好きなように動画を載せられるようになった。
しかも、著作権が絡むCMなどの動画を管理する手間も削減できた。CM素材は出演しているタレントや、使用している楽曲の権利の関係から利用できる期間が限定されている。
複数のページで利用していると、「期間までにどのページと、どのページで掲載を落とす必要がある」と管理が手間になる。それが一元化することによって元になる動画ファイルの設定を変えれば、すぐに動画配信を止められるようになった。
利用者数はまだ少なくとも、スマフォ経由の動画視聴は半数近く
Brightcove Video Cloudを導入することで、動画配信・管理に関する懸念事項は解決できた。それ以外に、サイト全体のPV数が増加する効果もあったと深山氏は振り返る。
「リニューアル直後にアクセス数が伸びるのは当然ですが、リニューアル効果が落ち着いた後も以前より高い水準で安定しています。特に動画のためにプロモーションしていたわけではありませんでしたから、スマフォ対応による変化でしょう。明確な効果があったことが分かります」(深山氏)
なぜスマフォ対応することで、そこまでPV数が増えたのだろうか。
これはホンダのデータになるが、ホンダのモバイルサイトを訪問するスマフォユーザーの比率は10%弱。しかし、スマフォユーザーは動画コンテンツと親和性が高いようで、モバイルでの動画コンテンツ接触者のデバイス別比率で見ると、なんと全体の40%強にまで跳ね上がっている。
これまで再生できていなかった動画コンテンツをスマフォから視聴できるようにするだけで、PV数が増える。十分にその根拠となるデータと言えるだろう。
ASIMOの動画視聴データで如実に表れたユーザーの関心
Brightcove Video Cloudによってもたらされたものは、ほかにもある。それは動画視聴のデータを取得できるようになったことだ。
例えばホンダの場合、11月に人型ロボット「ASIMO」の新型を発表。ASIMOの新機能を解説する動画をサイトに掲載したところ、ユーザーの興味関心を端的に把握することができた。
というのも、新型ASIMOの「時速9キロで走る」「サッカーボールを蹴る」といった機能を紹介する20秒程度の動画完聴率は、それぞれ90%超。「一般的なテレビCMの動画でここまで最後まで見てくれるのは非常に稀」(深山氏)であることを考えると、それだけASIMOの「走る」「蹴る」機能が注目されていると分かる。
「いろいろな機能を紹介する中で、どういう要素にお客様の関心が寄せられているのか、数字から分かるようになりました。
今後は、動画視聴に関するデータを分析・検証することで、PDCAサイクルを回せるようにしていきたいと考えています。動画視聴から離脱されるタイミングを分析することで、動画を最後まで見てもらうためのノウハウを蓄積できるはずですから」(深山氏)
サイトごとに必要だったエンコード費用を削減。その分をコンテンツの充実に回したい
動画のエンコードから配信までを一元管理できるように変えたことで、まずは業務の効率化を達成できたと深山氏。今後はそれによって浮いた予算・時間を新たなコンテンツ制作に割り当てることで、ホンダのサイト全体で集客力を伸ばしていきたいと考えている。
「ホンダには、ゴルファー向けの情報サイト『Honda GOLF』のようなサイトもあります。ゴルフの魅力を伝えることで多くの人が移動に使う、自動車への関心につなげてもらうためのサイトです。そちらでもゴルフレッスンなどの動画を独自に作成しています。
従来は、そういったサイトが各自で動画エンコードの料金を支払っていました。ホンダの運営するサイト全体でBrightcove Video Cloudを活用していくことで、エンコードに掛かっていた費用の無駄を削り、コンテンツを増やすために力を割いていきたいと考えています」(深山氏)
Brightcove Video Cloudにはまだほかの機能もある。一例を挙げると、動画が流れる中で、特定のタイミングで動画の脇にある情報を表示、クリックしたら別ページに遷移させることができる。CMなら、タレントが登場したところでプロフィールページへのリンクを、音楽が流れ始めたところでアーティストページへのリンクを動画脇に表示する、といった仕掛けが可能なのだ。
「ECサイトにおける動画活用の成功事例として伺った話ですが、ECサイト以外でもうまく活用できると感じています。やれるはずですし、やってみたいところですね。次はただ動画を見せるだけではなく、『見せること+α』のところにチャレンジしていきたいです」と深山氏。ホンダの動画活用は、今後ますます進化していきそうだ。