日本のテレビ局のネット活用、「本気」を疑う3つの課題
さて、日本のテレビ局のネット活用の課題は、以下の3点であろう。
- マルチデバイス配信の少なさ
- 配信タイトル数の少なさ
- ユーザデータの保有
課題1:マルチデバイスの少なさ
ネット活用を語るときに、見落とされがちな点がスマホやタブレット端末へのマルチデバイス配信である。米国テレビ局のネット活用は、どれもスマホやタブレットなど普及が著しい新たな端末をターゲットとしている。
Huluも、日本でパソコン以外に、パナソニックやソニー製のテレビとiPhoneやiPad、Android端末、それにプレステ3やXbox360といったゲームコンソールに配信している。
テレビ番組を視聴するには、大型のモニターや静かな空間が必要であるというテレビ局側の固定観念を捨て、空いた時間に手元の機器で見たいという視聴者ニーズに合わせたサービス展開をしているのだ。実際にHuluを利用していても、非常に使いやすい。
それに比べ、日本のテレビ局のネット活用はユーザーフレンドリーとは言い難い。たとえば、TBSオンデマンドはケータイとスマートフォンの両方で視聴可能である。しかし、同じ番組をパソコンとスマホで見るためには、違うサービスに申し込まなければならない。
さらに、見たい作品によって申込むサービスが違うケースもある。TBSオンデマンドの配信タイトル数は、「スカパー!オンデマンド」では30タイトルしかないが、「テレビドガッチモバイル」では200タイトルもある。
課題2:配信タイトルの少なさ
それでもTBSやNHKは、過去アーカイブが充実しており、ネット活用可能なコンテンツが豊富にある。NHKアーカイブスでは4千本以上のタイトルが視聴できる。
いっぽう、テレビ朝日はオンデマンド配信コンテンツが50タイトルしかない。50タイトルだけで売上を伸ばすのは無理だろう。1回の視聴料金が250円だとすると、8千回視聴されなければ、売上1億円に到達しない。
NHKオンデマンドで2011年4~5月に一番視聴された番組は「江」で、視聴回数は5千回だ。1億円を達成するにはそれを超えなければならず、達成したとしても、テレビ朝日の年間売上2,500億円のうちのわずかな規模である。
課題3:ユーザーデータの保有
3つ目の課題は、決済を他プラットフォームに依存し、ユーザデータを所有しない点だ。たとえば、TBSオンデマンドはサービスログインを他社に任せている。これは、企業にとってネット活用で一番重要なユーザデータを他社に渡していることになる。
現在、ブランド力のある企業のネット活用は、自社サイトでユーザデータを集め、行動履歴に基づいたレコメンドや販促活動をマーケティングの中心に据えている。これからのマーケティングは、企業が直接ユーザーとコミュニケーションする方法論が主流になろう。
ゆえに、テレビ局はネット活用が有料モデルとなり、番組が商品となった時点で、ユーザーと直接向き合わなければならないはずである。たとえば、ユーザーの好みや視聴頻度を基に、オススメ番組を表示させ、新たな番組視聴や購買意欲を促進する考え方が必要であろう。そういった意味で、ユーザデータの所有は単なるリスクではなく、収益を得るための必要リスクと考えるべきなのだ。
このように、マルチデバイス配信、配信タイトル数、ユーザデータの活用の3点は、日本のテレビ局のネット活用に本気度を感じさせない課題である。