自分の仕事がどう社会に役立つのかを考える
――「競合サイトを100個見る!」ですか。ご自身もそうやって、若手の頃は目の前の仕事に没頭されていたのですね。とはいえ、若手の頃はどうしても視野が狭くなりがちですが……。
「どこを目指すのか」を意識することが大事ですよね。僕は元々、社内でどう見られるかといったことに興味がなくて(笑)、世の中で一番いいものを作りたいという欲に従って仕事をしてきました。そこに立脚点を置かないとちょっと叱責されたたけで、心が折れてしまうかもしれません。

僕も社内に遠慮をしなかったので、何を言っているんだとよく言われましたが、大切なのはそこでめげないことです。自分が曲げたくない点にも妥協してYESマンになってしまったら、もう先がないと思います。
青葉 ――ご自身が、今大切にしていること、今後取り組みたいことを教えてください。
1つ目は、「お客様の感情を動かすこと」です。マーケティングとは事業全体に関わる戦略だと僕は捉えているのですが、当社が顧客の課題を解決する事業を展開していることを考えると、いかにお客様に「解決して嬉しい」「よかった」という気持ちになってもらうことが事業の本質ではないかと思います。気持ちが動いてこそ、「もう一回来てみよう」「人に伝えなきゃ」という気にもなるわけですし。
2つ目は、「世の中にとって役立つもの、面白いもの」を作りたいと常々思っています。 “人のふんどしで相撲を取る”ようなマネはやめたいですね。他人が作り上げたものに便乗するのではなく、自分たちのアイディアで世の中を動かすようなものを作りたい。特に雑誌メディアの勢いがない今、雑誌に代わる文化を担える、刺激的なWebメディアを立ち上げたいと考えています。
青葉 ――最後に、安田さんが考える「マーケティング・プロフェッショナル」とは。
お客様の課題を解決し、おもしろさを増幅させることができる人ではないでしょうか。ウィメンズパークを成功事例として取り上げていただくようになって、外部の方から「コミュニティサイトの作り方を教えて欲しい」とよく尋ねられましたが、そもそも目的と手段を履き違えている人が多く残念に思います。Webはあくまで手段なので、お客様の課題をどう解決するのかを明確にした上で導入しなければ本末転倒です。
加えて、お話しておきたいのが、「ネットマーケティング業界に溺れてはいけない」ということです。そもそも伸びている業界であり、コストを投下すればレスポンス量も増加する仕組みになっているので、Webの世界だけを見ているとあたかも自分の手柄だと錯覚しがちです。Web上のレスポンスに一喜一憂せず、全体的な視点を持って取り組むことがプロには不可欠だと考えています。(文・高島知子)
1955年に福武書店として創業し、60年近くの歴史を持つベネッセ。私も学生時代、長きにわたり赤ペン先生のお世話になった一人です。模試や通信教育を起点に、最近では、生活、シニア、語学など事業領域を広げ、2012年3月期のグループ全体売上は約4200億円。「たまごクラブ」「ひよこクラブ」の月間発行部数は33万部、ウィメンズパークの会員数は380万人を超え、生活領域のビジネスは順調に拡大を続けています。

私が驚いたのは、ウィメンズパークの登録をすると全顧客にハガキを郵送し住所確認を行い、一日2万件にもおよぶコメントを全件書き込みチェックしていることです。赤ペン先生で培った企業姿勢や行動力に、強い組織ならではの個性を感じました。
安田さんの素晴らしさは、安易に模倣するのではなく、徹底して人とは違うことを考え、お客様のニーズに的確に応えながら、お客様の感情を動かそうとしている点にあると思います。本当に役に立つことを徹底して追求し、組織の中でバランス感覚を持って、あきらめずに実行し続けてきた安田さんが、WEBと雑誌をどのように融合していくのか。今後の動きから目が離せません。