大手エアラインとLCCの戦略の違い
LCCの攻勢に対して、既存の大手エアラインはどのように対抗していくのだろうか。「安さ」では太刀打ちできなくても、LCCにはないプレミアムなサービスに各社は活路を見出している。ビジネスクラスを中心にシートリニューアルを進め、機内サービスでも一流ホテルやレストランとタイアップした機内食メニューなどを開発。空の旅を豊かに進化させた。
乗客の数ではエコノミークラスが圧倒的に多いにもかかわらず、大手各社はなぜ上級クラスに絞ったプレミアム戦略に力を入れるのだろうか。その背景には「顧客の上位2割が収益の80%を生み出す」という航空業界マーケットの構図がある。大手エアラインにとって低運賃勝負に限界があるとすれば、上質なサービスにより高い料金を喜んで払ってくれる層をターゲットとした戦略をとるのは理にかなっている。
一方で全収益の20%しか生み出さない残りの8割の層をターゲットに、徹底した低コスト化で利益を出していくのがLCCなのだ。では、前述したインターネットでのチケット直販やサービスの有料化のほかに、どのような工夫をしてコストを下げているのだろうか? 私自身の経験も含めて、その点をもう少し詳しく解き明かしていこう。
- 空港での滞在時間を短縮し、稼働率を高める
- 徹底的なコストダウン志向
ポイント1:空港での滞在時間を短縮し、稼働率を高める
マレーシアのクアラルンプールからタイのバンコクへ、エアアジアを利用したときのことだ。空港に到着後、早く降りようとする人たちで通路が混み合っていたので少し待っていると、やがて機内に次のフライトの搭乗案内アナウンスが流れ始めた。乗降扉が開かれてまだ10分も経っていない。そしてそれから20分もしないうちに、同機は新しい乗客を乗せて再び滑走路に向かっていった。
LCCが格安運賃を実現している秘密の一つが、この空港での滞在時間の短さだ。客室乗務員たちは1~2時間のフライト中、有料サービスである飲み物や軽食を販売しながら、ポリ袋を持って乗客からゴミの回収を行う。トイレ掃除なども着陸前に済ませてしまうことで、空港での滞在時間を30分程度に短縮させることに成功。クアラルンプール/バンコク間はそれまで1機の飛行機で1日に3往復が限界であったのを、エアアジアでは5往復まで増やした。そうして稼働率を高めることで、日本円で片道3,000円という格安運賃を実現しているのだ。
空港での滞在時間を短くするためにクルーたちが機内清掃を手伝うというのはLCCでは当たり前の光景だが、アメリカ国内の移動でLCCの“元祖”ともいえるサウスウエスト航空を利用したとき、乗った便の機長までが荷物運びに駆り出されている様子に接したときにはさすがに驚いた。
ポイント2:徹底的なコストダウン志向
運航する機材をシンプルな構成にしていることも、コストダウンを実現する重要なポイントだ。LCCの多くが、座席数130~160席クラスの機材に統一。同一機種に絞ることでパイロットの運用も効率よく行えるし、また整備の面でも部品ストックが1種類で済むので無駄を排除できる。
今年デビューした和製LCCの3社は、いずれもエアバスのベストセラー小型機A320を採用。大手エアラインでは通常、160席程度で運航しているA320のキャビンに、3社とも180席を設置。その分、シートピッチ(座席の前後間隔)は狭い。一度にできるだけたくさんの乗客を運ぶことで、利益率を高めている。
広告戦略についても、大手エアラインとの違いが際立つ。コスト削減が大命題のLCCは、広告に使える資金は潤沢ではない。そこで考えた戦略が、超格安料金などのキャンペーンでの話題づくりだ。ペイドメディアではなく、twitterやFacebookなどのソーシャルメディアを積極的に活用して情報を拡散し、ローコストでのPRマーケティング施策を行っている。
エアアジア・ジャパンが就航記念に行った、特賞で飛行機1機分180席の無料航空券が当たる「RED ANGESLを探せ!!」キャンペーン。ジェットスター・ジャパンの抽選で3万円分のバウチャー券がプレゼントされる「Finding MIHO!」キャンペーンなど、ソーシャルメディアを通じてキャンペーンを知り、LCC各社に興味を持った人は少なくないのではないだろうか。