クレジットカード業界におけるアクワイアラーの存在
米国では、PayPass(MasterCard)やV.me(VISA)がNFC端末をリーダーにかざすことで、サインレスのクレジット決済ができるという仕組みを作っており、日本のカード会社も、オリエントコーポレーション、ジャックスなどアタッカー系のクレジットカード会社はこれに乗っかるかたちで国内の運用をはじめています。
なぜ、おサイフケータイで先行している日本からこのようなサービスが出てこないのか、とお感じになる方もいらっしゃると思いますが、これはクレジットカード業界の構造が日本とアメリカで異なるためです。
日本では、加盟店側で発生するリスクはすべて原則アクワイアラー(Acquirer)が負担するという仕組みになっています。アクワイアラーは、クレジットカードの加盟店を審査・認定し、決済処理などを行う加盟店契約会社のこと。つまり、カードリーダーのセキュリティが甘くて不正が起きた場合、その損害はアクワイアラーが負担する必要があるので、店頭でのトランザクションについてどうしても保守的になってしまいます。結果として、決済のつどパスワード入力を求めるモバイル版のSmartplus(三菱UFJニコス)など、ユーザーに手間を強いる仕様になってしまいます。
一方米国では、VISAやMasterCard、Amex等のブランドがすべての責任を負っているため、柔軟な意思決定が可能です。そのため、PayPassやV.meのようなセキュリティレベルでNFC決済を広めることができるのです。
日本の電子マネーの今後
日本のアクワイアラー業界は、NFC普及に向けて自主的にセキュリティスタンダードを見直す動きもあるようですので、今後その仕様がどのようになるのかが注目されます。
電子マネーの世界は、カードとリーダーそしてバックエンドのシステムが一体運用されてはじめて意味を持ちます。また通常これらは異なる事業者によって運営されており、あくまで相対(あいたい)交渉によってつなぎこみを行っているという、かなり難易度の高いオペレーションです。また、消費者が電子マネーの使い方をマスターして日常的に使うようになるためには、地道な啓蒙の努力が必要です。こうしてみると、携帯電話をタッチして決済をするという光景が当たり前になっている日本は、米国に比べて一面ではかなり進んでいると言えます。

NFCはあくまでこの中の要素技術のひとつですので、今後どのように発展するかは、業界がうまく標準化ができるかという点にかかっています。
それにしても、FeliCaというエコシステムができあがっているにもかかわらず、NFCでこれを置き換えようとする動きの発信源はどこなのでしょう。サムスンやLGなどグローバルメーカーのAndroid端末を販売したい(せざるを得ない)携帯キャリア、また、買い替え需要を掘り起こしたいリーダーライター事業者、タグを販売している印刷会社あたりが発信源になっている気がします。これまでFeliCaエコシステムを推進してきた事業者が、これを世界に向けて売り出す努力をせず、「ガラパゴスだ」と言って後ろから撃つような真似をするのか、残念な気持ちになりますね。
個人的には、セキュリティチップなしのNFCならばQRコードの方がましだと思うのですがいかがでしょうか。某キャリアにはQRコードを推進する動きもあるようですが…。この辺はまた次回!