同質性の重視
これまでのリサーチは、どちらかというと同質性を把握することが主であったと言えるのではないでしょうか。プレスリリースだから、という側面もあるかもしれませんが、世の中に紹介されるリサーチ結果の多くは、単純集計とよばれる全体ベースでの結果がほとんどです。また、何が多かったのか、平均はどうだったのか、という記述が多く見られ、そこにはパーセンテージの多いものが重要という考え方が潜んでいるように思われます。
しかし、現在リサーチで求められているのは、「多くの人がいま求めているもの」よりも、「これから提案すべきことを考えるヒント」にあるのではないでしょうか。そうなると、パーセンテージの大きなものや平均値はあまり意味をなさなくなります。多くの人が必要としていることは、もちろん大切です。しかし、多くの人が気づいているということは、当然競合も気づいていることであり、新たな価値を生み出すのは難しそうです。むしろ、あるセグメントでのみ反応がよいもの、大多数ではないけれど必要とされているもの、について気づくことが必要になるでしょう。同質であるものを確認するよりは、異質であるが価値のあるものを見つけ出すことが重要だと言えそうです。
ビッグデータ(ここでは、主に大規模データの意味で使います)でも同様で、性別や年齢構成、購入頻度の分布、売れ筋商品などの実態把握が目的であれば、何もすべてのデータを集計する必要はありません。統計的にサンプルを抽出して集計するほうが、よほど効率的です。ビッグデータに意味があるのは、これまではサンプル抽出の過程で拾い出すことができなかったデータを含めて分析ができること、つまりは異質性をもったデータを含めた分析ができることにあると思います。そこから、あらたな課題を発見できるかもしれませんし、新たなチャンスを見つけることができるかもしれません。モデルを作るにしても、もっと実態に即したものや、例外を考慮したものにできるかもしれません。
平均や多数決の原理だけで判断していませんか?
また、同質性を図る指標である平均や多数決の原理についても、考え方を改める(理解を深める、と言った方が正しいですが)必要があるでしょう。これらは、正規分布(図1)を前提とした場合には、とても有効な指標になります。1960~70年代のように、多くの人が同じものを求めた時代(「隣の芝生」とか「いつかはクラウン」などと言われていた時代です)であれば、このような分布の事象が多かったかもしれません。

しかし、好みが多様化し一人十色とも言われるような時代になると、たとえば好きと嫌いが分かれるような分布(図2)になる事象も少なくないでしょう。さらに、ネット上ではべき分布(図3)といわれる分布もよく見られます。アクセス頻度の分布、購入金額の分布などをみると、おそらくこのような形になるでしょう。

このように、ものごとの分布が多様になると、平均や多数決の原理だけで判断を行うことは、正しい理解の妨げになりかねません。
今回は、変わるべきマーケティングリサーチの視点として、代表性、単一調査への依存、同質性という3点について考えてみました。しかし、「変わるべき」という言葉は「本質を理解すべき」と言い換えた方が正しい表現であるように思います。マーケティングリサーチ不要論とも結びつきますが、本質となる考え方が不要なのではなく、リサーチを取り巻く環境の変化やリサーチの本質を理解せずに、これまでのやり方を惰性のままに踏襲し、なんとなく行われているマーケティングリサーチが不要なのだと思います。
そこで最終回となる次回は、変わることなく理解しておくべきマーケティングリサーチの視点の中でも、とくに重要な「方法論」について考えてみたいと思います。