ITとマーケティングの融合を進めるためのヒント
楠木:最後にマネジメントの話を聞かせてください。ITとマーケティングの融合が必要と言われている状況にありますが、すんなりと融合が進んでいる状況ではないと感じます。融合を進めるための解決策があれば、教えてください。
星野(千趣会):多くの場合マーケティングにテクノロジーを活用する際には、これまでマーケティング部門がシステム部に要件を出し実現していました。それが当たり前だったのです。
しかし、現在はEコマースが中心となりました。Eコマースにおいては、カタログで表現していたことをWebの画面で表現することになります。HTMLやJavascriptを使うことで、さらによりよい体験をお客様に提供することが可能であり、しかもそれをスピーディーに実現可能となっているため、そもそもマーケティング部門とシステム部門という分業自体意味が問われているのではないでしょうか。
非常にスピードが重視される時代のため、マーケティング部門にも多少のリテラシーがないとそもそも競争に勝てないと感じます。一方、システム部門はこれまでのようにユーザー部門からもらった仕事をこなすではなく、柔軟なシステム開発ができる環境を作るとか、堅牢なセキュリティシステムを構築するとか、そういった種類の仕事が大きくなるのではないかと思っております。
星野(日産):マーケティング部門とシステム部門の意識のギャップはかなり感じています。両方のサイドから歩みよることが重要だと思いますが、ユーザー部門のニーズ・要件を理解しないと何もはじまりません。システム部門からマーケティング部門に近づいていただかないことには、どうにもならないのではないでしょうか(笑)。
鷲津:ビジネス・パートナーという言葉がありますが、システム部門とマーケティング部門は互いにパートナーシップを高めあう意識を持って進めていくことが何より大切だと思います。

個客を知る=共感/体験/社会貢献
楠木:ここまでの議論で、マーケティングもテクノロジーも両方大切ですが、「個客を知る」を実現するためにはまず進める順番が大切なのかなという印象を持ちました。はじめに個客を知るとはどういうことなのか、何のために知るのかを整理し、知るための手段や必要な体制を考え、実行にうつしていく。この順番を間違うとよくない結果になるのかなと感じました。
また、テクノロジーでできることと、人間ができることは必ずしもトレードオフな関係ではないとわかりました。テクノロジーが普及・発達することですべてを解決してくれるわけではなく、一方で洞察、いわゆるインサイトは人間だけの仕事だよねって話でもない。洞察がたくさんあればあるほど、テクノロジーの活用方法があるし、テクノロジーが進化すればするほど人間は洞察を深堀りしないといけない。今日の議論でこのようなことがわかった気がします。最後に「個客を知る」ということを一言で表すとなんだと思いますか?
星野(日産):共感することです。
星野(千趣会):自分自身が同じ立場で同じ体験する、マーケティングもテクノロジーも体験する。
鷲津:社会に貢献することですね。個客を知ることでよりよいサービスを作ることができ、それを使った人がよりよい生活ができると思うからです。
楠木:鷲津さんの言葉を噛み砕くと、より細かくミクロに個人を理解していくからこそ、マクロでの波及にもつながっていくということですね。みなさん本日はありがとうございました。