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マーケティング・プロフェッショナルズ

「テレビCM好感度ナンバー1。でも実際はネットを活用した戦略が6割を占める」 ─ エステー 鹿毛康司氏

 変化を続ける消費者の価値観や消費行動に、企業はどのように対応していけばいいのでしょうか。マーケティングコンサルタントのサイコス青葉哲郎氏が、第一線で活躍するマーケティングのプロフェッショナルに聞く対談連載。第11回は、「消臭力」や「ムシューダ」の広告宣伝で話題のエステーを訪問。執行役・宣伝担当の鹿毛氏に、同社の宣伝戦略についてお話を伺いました。

今回お話を伺ったのは…
エステー株式会社 執行役 宣伝担当/クリエイティブ・ディレクター 
鹿毛 康司氏

1959年福岡県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、雪印乳業(現・雪印メグミルク)に入社。ドレクセル大学にてMBA取得(マーケティング、国際ビジネス)。帰国後、同社の営業改革を担当。2000年の雪印集団食中毒事件、2001年の牛肉偽装事件における被害者・マスコミ対応の前線に立つ。その後、2003年にエステー入社。宣伝担当として広告すべてのクリエイティブ・ディレクションを担当しヒットCMを生みだし続けてきた。

本当に私の人生は“びっくり”の連続

 青葉―― 鹿毛さんは、エステーの執行役・宣伝担当というお立場であるとともに、クリエイティブ・ディレクターという肩書で、CM制作を細部まで手掛けられていらっしゃいますが、エステーに入社されるまでのご経歴を伺えますでしょうか。

 福岡県飯塚市筑豊という田舎で生まれ育ちました。高校は学年450人のマンモス校に入学。そこで水泳に打ち込んで、県大会3位に入賞するものの、学業成績では完全な落ちこぼれに。どのくらいの落ちこぼれかというと、卒業時の成績が447番(下から三番目)でした。浪人時代は、昼夜勉強して奇跡的に早稲田大学に合格しました。これには家族も高校の先生もびっくり。これが私の“びっくり”人生の始まりと言えます。

 大学卒業後は新卒で雪印に入社しましたが、メイン事業の牛乳やバターではなく、ワイン営業として大阪の酒屋まわりを7年間。一生このまま埋もれていく自分が見えまして、大きくステージを変えたいと猛勉強し、渡米してMBAを取得しました。これにも周囲がびっくり。そして、帰国した矢先に起こった雪印食中毒事件で、再建プロジェクトにかかわったことからNHKスペシャルに報道されて親戚中がお茶を噴き、またまた“びっくり”というわけです。もともと会社を辞める覚悟で始めた運動でしたので、事件から3年経ち私は会社を去ることを決断しました。

 青葉―― その後、エステーに入社されます。独自の転職活動を展開されたということですが、具体的に教えてもらえますでしょうか。

 雪印を退職した時点で42歳になっていました。世間では35才が転職の限界とも言われるほどですから、転職エージェントに相談して面接を受けにいっても、まったく話がまとまらなかったのです。そこで私は、「自分の価値をわかってくれるのは、中間管理職ではなく社長だ!」と思いまして、社長自らが面接を行う会社を探したところ7社ほど見つけたのです。その後、7社の面接はすべて合格しました。

 そして、最初に断ろうと思って出向いたエステーで鈴木喬社長(現会長)が役員会議を抜けて話をしにきてくれまして、私の将来や会社のことについて語ってくれたのです。「うちに来てほしい」という思いを一番強く感じ、素直にこの人のもとで働きたいと思い、入社を決意しました。

 その後、これまで経験のあった営業ではなく、広告宣伝を任されまして、日本の広告費ランキング200位以下の当社CMが次々とヒット、ミゲルとT.M.Revolution 西川さんが歌う「消臭力」CMがCM総合研究所の好感度調査で日本一(2011年8月)を獲ってびっくり。朝日新聞の「ひと」欄や、NHK「めざせ!会社の星(現在の番組名はGood Job!会社の星)」にまでご紹介いただき、再度親戚中びっくり…ほら、本当に私の人生は“びっくり”の連続で、びっくりしすぎて寝る暇がないくらいなのです(笑)。

 青葉―― とてもお忙しくされていながらも、ツイッターなどを通じて、積極的に消費者の方とコミュニケーションを取られています。現在の宣伝部の体制、主な役割についてお聞かせいただけますか。

 宣伝部は、会長直轄の組織で私を含む3名と外部パートナーというチームで動いております。ミッションは、企業・商品のブランディング、そして売上をつくることです。

 今はCMや特命宣伝部長高田鳥場(※)の印象が強いせいか、「エステーは自由でいいよね」と言われますが、決して私や当社の環境が特別なわけではありません。むしろ、私は執行役を預かっており、社員扱いである執行役員とは違って四季報にも名前が載っていますから、経営に対する責任はシビアです。外からはばかばかしいことをしているように見られますが、それは単なる手法です。宣伝部の仕事は、宣伝活動というよりマーケティングそのもの、経営戦略そのものを実行しているのです。

 また当社の広告予算は30億円ほどで、日本企業の中で200位にも入らない予算でCMを制作しています。他社を例に挙げると、某自動車メーカーで1,000億、私たちが属する日用品メーカーのトップは600億もの広告予算を持っています。

 にもかかわらず、いろいろなランキングに登場し、とりわけ購買意向の指標も評価されるCM総合研究所の「ブランドオブザイヤー」において、化粧品・日用品企業部門の表彰をいただいているのはうれしいことです。もちろん販売力、商品力も不可欠ですが、宣伝も売上に貢献してナンボです。私はそのために広告を立案し宣伝費を投じ、POSデータを毎週確認する、投資家のような仕事をしていると自負しています。

特命宣伝部長高田鳥場(たかだのとりば)

 鹿毛氏が2009年に考案したキャラクター。本社がある高田馬場に由来。ツイッター(@onetwopanchi)を利用しコミュニケーションを図っている。

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エステーの宣伝の要は「左脳で考え抜き、アウトプットは右脳に落とし込む」

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この記事の著者

青葉 哲郎(アオバ テツオ)

サイコス株式会社 代表取締役
東京都出身。明治大学政治経済学部卒業。1994年4月 ジャスコ (現イオン)入社。1995年マイクロソフト入社。トップセールスを経て、最年少ブランドマネージャに就任。MSN事業開発など担当。2001年インテリジェンス入社。マーケティング部を設立し『はたらくを楽しもう。』で同社を転職ブランド1位に。2008年リクルートエージェント入社。『転職に人間力を。』で新ブランドを立ち上げ、コスト減と広告効果の最適化...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/05/20 08:00 https://markezine.jp/article/detail/17607

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