安定的な売り上げをもたらす定期購入、売上高の9割占める
2つ目が早くから定期購入型(サブスクリプション)のコマースビジネスに取り組んだこと。全社売上高の9割は定期購入経由が占め、安定的に売り上げが計上できる仕組みを作り上げた。
堤取締役はこう言う。「キャベツを売っても数百円で、特別に粗利が高いわけではない。いかに継続して当社とお付き合いしてもらえるかが肝になる。過去に米国で広がった、単純に早く届くというネットスーパーのビジネスモデルでは体力が持たないと感じた」。
1人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす価値を指すLTV(顧客生涯価値)が高いオイシックスだが、安定的な売り上げが期待できる現在のビジネスモデルを構築するまでは平坦な道のりではなかった。
堤取締役は「例えば、産地で野菜を食べたり、農家の話を聞きながら食べると美味しさが異なるように、如何にそのようなことを伝えていくのかを考えてきた」と振り返る。
商品購入後、梱包箱などを通じたコミュニケーションで商品を説明。例えば、Aという商材は最初は調理をせず、あえて生で塩だけつけて食べるとえぐみのない美味しさが分かります――こんな農家しか知らないようなうんちくを消費者にきちんと伝えるなど、「農家のところにある美味しい情報を伝えている」(同)
継続利用の鍵は、如何に胃袋を掴めるか
こうしたビジネスモデルを築き上げた背景には「コモディティ商材は儲からないため、体力のない会社はきつくなる」という考えもあった。10年前と比べても、大手通販企業などが食品通販に参入し、競争環境は厳しくなっている。
競争が激しくなれば、大手企業とEC事業者の間で消耗戦が繰り広げられることになる。資本の大きな大企業が有利なのは自明の理だ。その対抗策として、オイシックスは自社だけの価値を購入者に提供、繰り返し利用してもうことに専念した。定期的に利用する定期顧客を年々積み上げることで、スケールメリットを追求してきた。
「顧客の多くは(リアルの)スーパーを使っているような人たち」(同)というオイシックス。基本的にはごく普通の一般消費者が主要顧客で、安心・安全を徹底的に追求している消費者層ではない。端的に言えば、「自然食品の初心者」(同)なのだと言う。

定期購入型ビジネスが会社の屋台骨を支えるオイシックスにとり、さまざまな層の新規利用者を呼び込んでも、継続利用してもらえなければ意味がない。ある競合は「エコ」「安心・安全」を追求して、食の安全に関心の高い消費者層をターゲティングしているが、オイシックスのターゲットはリアルのスーパーを利用する人たち。ネット通販が拡大しているものの、スーパーを利用する主婦層などは多く、まだまだ潜在需要は高いといえるだろう。
こうした「自然食品の初心者」をターゲットとするオイシックスは、「『美味しい』と感じてもらうことで継続利用してもらう」(同)ことに力を注いでいる。「最初の購入で如何に消費者の胃袋を掴み、習慣化してもらうか」(同)。これが継続的に購入してもらえるための重要な要素という。
例えば、「農家を守る」「エコ」に主眼を置く競合などは安心・安全を追求するユーザー目線でビジネスを展開するが、オイシックスは常に「消費者目線」を意識。初心者の人が購入しやすいサイトの導線作りなどを心掛ける。「野菜、肉、魚といった基本的な商材を召し上がってもらい、胃袋を掴む」(同)。この手法が成立するのは、「美味しい」と感じてもらえる品質管理が功を奏しているからだ。
イノベーションの創造、1,000億円規模の企業へ
スマートフォンやタブレットといった新たな端末の広がりで、オイシックスは新たな価値創造に向けて走り出した。堤取締役は「商品の価値など、今までにないイノベーションをどう創っていくかが重要」と指摘。続けて「300億円、500億円、1,000億円を早く目指したい」と新たな目標を明らかにした。