マスメディアからYouTubeへ導線を作りバイラル動画を生み出す
6月16日、最も視聴率の高いスポーツ・イベントのひとつ「NBAファイナル」のゲーム5の放映中、サムスンはTVCMをオンエアし、話題の第一波を作ります。時間にして3分、ドキュメンタリー形式で作られたTVCMに登場するのはジェイ・Z。そしてCMの中で、4年ぶりのオリジナル・アルバム「Magna Carta Holy Grail(マグナ・カルタ・ホーリー・グレイル)」をリリースすること、アルバムのリリースが7月4日に決定したことを明らかにします。
その直後、サムスンはこの3分のTVCMをYouTubeで公開します。すると、瞬く間に視聴者がソーシャルメディアで共有し始め、そしてSNSやオンラインメディアでさらに拡散され、さらなるリツイートやブログ投稿、記事化へと広がって行きました。放送直後にYouTubeで動画を公開することで、勢いを殺すことなく話題の第二波を獲得します。

YouTube動画は公開からわずか1週間で再生回数が2000万回を超え、約16万回共有されるバイラル動画となり、話題を波及させました(7月20日現在、再生回数は2415万回を突破しています)。
3分間のTVCMで最も特徴的だったこと。それはサムスンのCMでありながら、サムスンや自社製品が取り上げられることがなかったことです。視聴者の目に映るものといえば、小さく映るスマートフォンや一瞬だけ映るタブレット、そして動画の最後に表示される「Samsung GALAXY」のロゴ。動画の中で、視聴者とサムスンをリンクする要素はこれだけしかありませんでした。
しかし動画は、次々と公開されるニュースやブログ記事において、サムスンがクチコミされる結果をもたらしました。マスメディアで注目を集め、ソーシャルで話題を拡散させるシームレスなアプローチを実現。結果的にサムスンは自社名を視聴者に押し付けることなくパブリシティを獲得し、ソーシャルやオンライン上で話題性を高めることに成功しました。

デバイスを持つ人だけが楽しめる「限定・先行」配信の舞台裏
サムスンの新しい取り組みとして注目されたもうひとつのアプローチ、それは「デバイスユーザー」オンリーなアプローチを実現したことです。
サムスンとジェイ・Zは、新アルバムをGalaxyユーザー(Galaxy S III、Galaxy S4、Galaxy Note 2)限定100万人に無料で提供することを発表しました。しかも、専用の音楽アプリ(MCHGアプリ)を通じて、iTunesなどでの正式リリース(7月7日)から72時間前に先行で配信するというのです。デバイスを通じて優先的にコンテンツを無料配信するアプローチは、競合のAppleやGoogleでも実施していない、前例のない取り組みでした。
好きなアーティストの新作が無料で、しかもデバイス限定でいち早く手に入る仕掛けは、多くの音楽ファンやメディアの注目を集めました。特に音楽ファンにとって無料という配信方法は(賛否両論ありますが)嬉しい音楽の入手手法であり、プレミアムな体験を生み出します。
しかしなぜサムスンは100万人分(アルバム100万枚)という膨大な数のアルバムを無料で提供できたのでしょうか? そこにもサムスンとジェイ・Zが交わしたブランド・パートナーシップが大きな役割を果たします。サムスンは契約において、ジェイ・Zから100万枚分のアルバムを買い取ることを契約内容に含むことで、無料配信を実現したのです。その投資額はなんと500万ドル(約5億円)に上ります。