注目が集まる「DMP」というデジタルマーケティングの基盤
広告・マーケティング業界で今、さかんに叫ばれているキーワードがある。「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム」だ。今年9月に開催されたデジタルマーケティングのイベント「ad:tech Tokyo 2013」はまさにDMP一色と言えるほど、関連製品のセッションが多かった。
この数年、マーケティング業界のキーワードのひとつは「ビッグデータ」だった。DMPに注目が集まる背景には、ビッグデータという非常に大きなテーマから、より具体的に「自社データ」を活用しようという企業の動きがある。
過去をさかのぼれば、データのマーケティング活用は、インターネットの登場以前から脈々と研究と実践が繰り返されてきた歴史がある。現在のDMPの隆盛を、データベースマーケティングの観点から見れば、Webでもようやくユーザーデータを統合したマーケティングに挑戦できるようになったと解釈することができるだろう。事業会社から見たDMPは、複数の場所に分散したユーザーデータを統合的にマーケティング活用するために、ようやく整ったインフラ基盤なのだ。
DMPの登場
DMPはアドテクノロジーの進化の過程で出現した。「アドテク」と言えば「インターネット広告」分野の技術を指すが、DMPというデジタルマーケティングのインフラ基盤について本質を理解するためには、「インターネット広告テクノロジー」と「マーケティングテクノロジー」の密接な関係を理解しなければならない。
2013年現在、アドテクノロジーは、複雑な生態系と呼ぶべき構造を持つに至っている。また、企業データを扱うDMP関連サービスも数多くリリースされており、全体像を理解するだけでも非常に難しい状況だ。しかし、正しい理解をしていなければ、DMP導入を検討する企業にとって、目的に沿わない無用の長物と化してしまう可能性も大きい。
Webマーケティング業界は、テクノロジー主導の側面が大きく、それゆえ盛衰のサイクルが速い。いつかは取って代わる技術だとしても、時々のテクノロジーの理解がなくては、時流に則ったマーケティング施策を生み出すことは不可能だろう。
本連載ではテクノロジーをできるだけ噛み砕いて解説し、「DMP」の整理と理解を進め、事業会社のマーケティングを取り巻く環境の変化と、課題を読み解いていく。
インターネット広告の歴史を振り返る
DMPを理解する前に、インターネット広告の歴史を簡単に振り返ってみよう。インターネット広告は、現実の広告媒体と同じように、媒体主の販売する広告枠を広告主が購入して、掲載される仕組みから始まった。これはWeb広告でも純広と呼ばれ、現在ではインプレッション数を稼ぐ目的で使われている。黎明期におけるインターネット広告は、「媒体力」と「媒体特性」が主眼であり、自ずと「媒体主」が広告業界を主導する形をとっていた。
その後、登場したのが「アドネットワーク」だ。アドネットワークは、さまざまな媒体の広告枠を束ねた、いわゆる広告枠の問屋業である。ネットワークに出稿すれば、問屋が保有する広告枠に自社の広告を表示させることができる。初期の「媒体力勝負」の視点とは異なるかたちでインターネット広告を捉えたものであったが、ネットワーク単位の購入となるため、まだターゲティングの粒度が粗いという問題を抱えていた。
この粒度の問題を解決するかたちで登場したのが、「AdExchange(アドエクスチェンジ)」だ。これによって、アドネットワークに対して「枠」単位で買い付けが可能になり、インプレッション単位の売買を可能とした。「アドネットワーク」と「アドエクスチェンジ」は、2013年現在の「インターネット広告市場」の素地となった仕組みである。
そして2008年前後、アメリカでアドテクノロジーの大きな進化があった。「DSP」と「SSP」と呼ばれる広告配信プラットフォームが登場したのだ。これは、広告主と媒体主の紐づける最適化フローを、金融市場で行われる入札/応札の関係に見立て、双方に管理画面を提供する仕組みである。
この頃、すでに多くのアドネットワークとアドエクスチェンジが乱立しており、出稿最適化の追求はもはや人の手に負えない状況になっていた。DSPは管理画面から、既存のネットワークやアドエクスチェンジを意識することなく媒体を自動最適化する。媒体主も同様にワンストップで出稿管理ができるようになった。
さらに、広告主の費用最適化と媒体主の収益最大化を自動で執り行い、1インプレッションごとに入札・落札が瞬時に繰り返されるRTB(Real Time Bidding)というマッチングシステムに帰結した。この仕組みには多くの業者が関わることになり、結果的に「生態系」を生むことになった。