膨張するマーケティング部門の業務
マーケティング部門は顧客になりうる企業を見つけ出し、購買の可能性が高い見込み顧客を抽出する。営業部門はそれを元に、製品を説明し、検討を促して購買に漕ぎ着ける。従来のこうした流れが、今多くのBtoB事業においてうまくいかなくなっている。
オラクルのマーケティングオートメーションツール「Eloqua(エロクア)」紹介ビデオより抜粋。主人公のモダン・マークが、マーケティングオートメーションを取り入れてリードを育成し、マーケティング部門と営業部門の溝を解消する物語。
その理由のひとつは、顧客の側がさまざまな情報を自分で調べられるようになっていることだ。広告などで関心を持ってくれ、自ら調べてくれるなら、そんな都合がいいことはないと思うかもしれない。だが、問題は直接のコンタクトなしに「買うか/買わないか」が決定されてしまうことにある。
実際に、BtoB領域では57%もの顧客が「営業担当者と会う前に購買製品を決めている」という調査結果がある(出典:CEB, “The Challenger Sale,” 2011)。Web上のコンテンツや評判などによって、人的な営業努力の機会がないまま、勝負がついてしまう。
言い換えれば、マーケティング部門の業務が、価値の訴求や購入検討の部分にまで拡大しているのが現状だ。顧客が主にWebを介して自ら情報収集をしている間に、自社に対する顧客のモチベーションが高まるような接触をできるだけ増やしておかなければならない。
今、そうした活動を自動化する「マーケティングオートメーション」に注目が集まっている。大手ITベンダーが提供するマーケティングオートメーションツールを使って、広告やセミナー等で発掘した潜在リードを効率的に“ホットな見込み顧客”へと育てることができる。
マーケターも売上にダイレクトに貢献せよ
BtoB領域においてマーケティングオートメーションツールの導入が進んでいるのは、マーケティング部門に求められる指標として「ROMI(Return on Marketing Investment)」が適用されることが多くなっていることも背景にある。平たく言えば、「直接売上に貢献せよ」ということだ。
年間のセミナー開催数や見込み顧客のリスト数などが活動指標になっていた時代ははるか遠く、この数年では特に欧米やアジア圏の企業で、例えば「売上全体に対する30%のキャンペーン貢献率」「マーケティング費用の5倍の売上創出」といった指標がCMOに突きつけられるようになっている。まだ日本ではそこまでシビアではないが、グローバルでスタンダードになりつつあるこの流れは、近い将来に日本のマーケターも直面する課題だろう。
これを踏まえても、単にイベントなどで獲得したリードを渡すだけでなく、直近の成果に結び付きそうにないリードもセグメンテーションし、ターゲティングしてキャンペーンを設定・実行し、評価して、見込み顧客を長期的に育てていくことが必要だ。これをテクノロジーの力で自動的に高速で行うのが、マーケティングオートメーションツールである。ちなみにこれを採用したマーケティングは、欧米では「現代的な」という意味合いで「モダン・マーケティング」と称され始めている。
見込み顧客の状態を踏まえたきめ細かなターゲティングで温度感を高める
マーケティングオートメーションツールを使えば、冒頭で紹介した「営業フォローを後回しにしてしまったリードのうちの実に8割が、2年以内に競合企業から製品を購入している(出典:Sirius Decisions)」という状況を回避できる。その時点では可能性が薄くとも、せっかく接触できたリードを取りこぼさない、つまり将来の顧客を失わずに済む。では、具体的にマーケティングオートメーションのプロセスを見てみよう。最初のステップは、ターゲティングだ。
モダン・マーケティングの第一歩になるのが、ターゲティング。すなわちターゲットを絞ることだ。それぞれの見込み顧客に最適なアプローチをするために、まずは精緻なターゲティングが重要になる。
まず、見込み顧客のオンラインでのさまざまな行動履歴を把握。発信したどのメールが開封されているか、どこに反応しているか、どのWebページを見ているか、などの情報を顧客の属性データと組み合わせてスコアリングし、セグメント化する。
当然、スコアリングとセグメントの精度が高いほど、その先へ続く顧客育成の成果は高まる。つまり、その精度の高いツールを選ぶことが重要になる。マーケティングオートメーションでは、ターゲティングし、キャンペーンを設計・実行して評価して、それを元にまたターゲティングするという一連の流れを繰り返して、きめ細かに顧客の“温度感”を高めていく。
顧客のデジタル・ボディ・ランゲージを読み取り、アプローチに活かす
ターゲティングの次のステップになるのが、エンゲージメントの形成だ。マーケティングオートメーションツールが有効である最大のポイントは、「それぞれの顧客に合ったアプローチができること」だろう。“オートメーション(自動的)”とはいっても、一斉にメールを自動配信するのではまったく効果は上がらない。リードの1件1件が、今どのような段階にあるのかを把握し、適切なタイミングで適切なメッセージを発信していくことがカギになる。
顧客育成に欠かせないエンゲージメント形成。具体的には、見込み顧客ごとに最適なメッセージを発信していくことだ。顧客のオンラインの行動履歴からデジタル・ボディ・ランゲージを読み取ってアプローチし、対話するかのように段階的に顧客の温度感を高めていく。
顧客の価値観が多様化すると、顧客に合わせたメッセージも多様になり、必要なコンテンツや顧客育成に効くシナリオのバリエーションも増えていく。そうした状況下で、日本でも多くのマーケターが「シナリオに沿ったコンテンツを用意できない」、あるいはそもそも「シナリオが設計できない」という悩みを抱えている。
適切なシナリオ設計を行うためには、SNSのアクティビティ、Webサイトの訪問履歴やホワイトペーパーのダウンロードなど、オンライン上の行動である“デジタル・ボディ・ランゲージ”から、顧客が購買ファネルのどこにいるかを適切に把握し、コミュニケーションを深めていくことが重要だ。
本来これらは、元々どこかに正解があるわけではなく、PDCAを重ねてトライ&エラーから最適な策を導き出していくものだ。だが、それを手動で模索するには限界があり、またムラも出てきてしまう。そこで、マーケティングオートメーションツールによる大幅な効率化が強い味方になる。
“機が熟した”リードで高いコンバージョンを実現
精度の高いターゲティング、顧客の検討ステージに合ったアプローチによるエンゲージメント形成の次は、いよいよコンバージョンである。
売上を上げるのに最も知りたいことは、「いつ買うのか」ということ。言い換えると、見込み客から顧客へ変換する時期だ。マーケティングオートメーションツールにより、最小の労力で最大のコンバージョンを実現することができる。
マーケティングオートメーションでは顧客に対し、適切なタイミングで適切な情報を提供し、同時にその中から随時、温度の十分に高まったリストを抽出する。つまり、営業担当者が商談に向かうに値する確実性の高いリストを得ることができる。そのため、営業活動の質が向上する。
実際に、あるマーケティングオートメーションツールでは、導入企業の売上が平均して34%向上したという。人的な労力をぐっと抑えて、コンバージョンに適した“機が熟した”リードをコンスタントに得ることができるのが、マーケティングオートメーションの大きな利点である。前述した、マーケティング部門に求められるROMIの達成もしやすくなる。
さらにマーケティングオートメーションの効果は、売上の向上だけに留まらない。これまで発生していた「マーケティングからのリストは玉石混交」という営業部門の不満、また「せっかくのリードの大半が活かされない」というマーケティング部門の不満が解消し、多くの企業で課題になっている両部門の連携がスムーズになるのだ。これにより、人的な部分でもコミュニケーションが密になり、さらにコンバージョンに貢献するという好循環が起きる。
営業とマーケティング部門の連携を強化し、売上向上に貢献
最後のステップは「アナリシス」、分析である。各顧客に合わせた膨大な数のキャンペーンが実行されていても、各キャンペーンの効果を見定め、ROIまで含めて簡単に可視化しレポーティングできるのも、最新のマーケティングオートメーションツールの特徴だ。
有効なマーケティングオートメーションツールは、アナリティクス機能も備えている。着実な分析を行って初めて、マーケティングのノウハウが蓄積され、その先の顧客育成がさらに充実したものになる。
ここまで、マーケティングオートメーションにおける「ターゲティング」「エンゲージメント」「コンバージョン」「アナリティクス」の4つのステップを解説してきた。これらは、マーケターが担うべき仕事そのものだ。この4つの業務のうち、テクノロジーでカバーできる部分をすべて行えるのがマーケティングオートメーションツールである。
今までも、各ステップを部分的にサポートできるツールは数多く出回っている。だが、ほとんどの場合でそれぞれの結果をマーケターが手動で統合しなければいけなかったり、キャンペーンなどの実行内容の決定を人的に行わなければいけなかったりと、ある程度の労力がかかってしまっていた。
現在、グローバルで取り入れられ始めているマーケティングオートメーションでは、テクノロジーの進化によってここまで紹介したようなリードの育成を一貫して行えるようになっている。売上向上に加えて、マーケティングと営業部門の連携の強化にもつながるモダン・マーケティングの概念は、これから日本でも拡大していくことが予想される。