「百人のキセキ」をご存知ですか?
8月5日、サッポロビールはコンビニ限定商品「百人のキセキ 至福のブラウンエール」の販売を開始する。この商品は2012年に、同社が運営するファンコミュニティ「百人ビール・ラボ」に集まった、12,000人のビールファンと共同開発されたもの。2012年3月にECサイトで限定発売した際は、10日あまりで完売したという。再発売に当たっても缶のデザイン投票を実施、約1,300名が投票に参加した。
「まさかコンビニで販売されるとは」と語るのは、「百人ビール・ラボ」を手掛けるサッポロビール デジタルマーケティング室の鈴木雄一氏。今回、コンビニで発売するに至ったのは、社内の別セクションから声が上がったため。本取り組みによって、参加者みんなから生まれた価値をより広く知ってもらうためには、従来のチャネルに流すのも重要という考えからだという。限定販売の際は2万4千本を販売したが、今回はその150倍、300万本を販売する。
デジタル時代でも、人の営みは変わらない
「百人ビール・ラボ」は2012年8月にローンチされたプロジェクト。サッポロブランドに留まらない、ビール愛好家が集まる日本一のコミュニティを作ろう、というのが元々の企画趣旨。その根底には「ビール好きの人(=エンドユーザー)はどんな人か、どのような考えを持っているのか理解したい」という考えがあった、と鈴木氏。
通常、ビール業界では新商品が出るとTVCMを打って店頭で販売をする。その段階でブランドの命が決まってしまう。一方、「百人のキセキ」は、「小さく生んで、いかにブランドを育成するか」という発想でプロジェクトを進めたと鈴木氏。まずは商品開発を楽しんでもらいたいと考え、少しずつステップアップしていったという。
百人ビール・ラボの取り組みは結果的に「共創」になっているかもしれない。しかし、この流れは「狙ったり仕掛けたわけではなく、みんなが作ってくれたもの」だと鈴木氏は語る。「コミュニケーションはキャッチボール。ボールを投げないと始まらない。だから、メーカーとして常に、最初にボールを投げる側でありたい。でも、そのあとは同じ土俵・同じ目線に立って回した」とのこと。相手を知りたいから、企業側もオープンで、という姿勢を貫いていると語る。
リアルイベントについても、「みんな『ビールが好き』という共通点がある。だから、最初は人見知りしても、最大公約数的なところはつながる」ことを体感したという。参加した人も、その体験を期待して再び参加するとのこと。そのため、鈴木氏が意識しているのは「場の提供」だ。主催側も楽しみたい、来てくれた人にも楽しんでもらいたいというスタンスをとり、それ以上のことはしないという。
テクノロジーが進化しても「人間は変わらない」と鈴木氏。ツールとしてSNSが登場し、企業とユーザーや、ユーザー同士がつながりを持てるようになった。しかしSNSの先でも、ユーザーとメーカーがお互いに真剣に意見を出し合う姿は変わらない。共感されるアイディアが出れば盛り上がり、人がそこに集まってくる。特別なことをしたのではなく、今あるツールを使って、その営みを繰り返したというわけだ。
現在、メーカーを中心に「共創マーケティング」の機運が高まっている。この点について考えを尋ねたところ、豊かさの定義が変わりつつあると鈴木氏は指摘する。今は提示されたものから決めるのではなく、「これが好きだから」と能動的に選ぶ時代だ。そのため、例えばビールの場合、現在は多様性・ビール文化の広がりを作り出すフェーズにあるという。この段階では、様々な活動が行われるのは良い傾向であり、ユーザーも望んでいることだという。その流れの中でいち早く「サッポロビールがユーザーと一つの価値を作り上げ、商品という形にできたことは強い自信」と鈴木氏。
今回の再発売で「百人ビール・ラボ」という、クローズドな世界から一歩踏み出した同プロジェクト。次に鈴木氏が目指すところは、「インターネットショップを核に、ユーザーに遊びに来てもらえる空間を作る」ことだという。百人ビール・ラボのコミュニティ機能も含めた、様々なネットコンテンツを通して、ユーザー1人ひとりに最適な体験を提供し、新しい価値を提供していきたいとのこと。
イベントはビールファンとサッポロの共演
「百人ビール・フェスト」は、「百人ビール・ラボ」のメンバーから、抽選で100名を招待したイベント(なお、応募者総数は14,000名とのこと)。イベント開始前には、静かに様子をうかがう参加者も多かった。しかし、乾杯の合図とともに一転。和やかな雰囲気となり、各所で談笑が生まれた。とある女性グループは、実は全員初対面。「ビールが好きというつながりで、こうやって盛り上がれるのはすごい。不思議だけど、とても楽しいです」と笑顔でビールを傾ける。また、別テーブルでは、百人ビール・ラボ発足当初から参加している男性も。「このビールをもう一度飲めるのは嬉しい。我が子のような感じがする」と、愛着を語った。
同イベントでも、「百人ビール・ラボ」で意見を取り入れた企画が用意されていた。その名も『描いて100人とカンパイ!』だ。みんなでマスゲームを行い、その様子を上から撮影するというもの。他にも乾杯シーンなどが撮影され、動画は後日インターネット上でアップされるという。
マスゲームでは、「祝★百人のキセキ発売!」という文字を全員で作成。きちんと読めるように整列するのは、意外と難しく「セ、頑張れ!」というようにスタッフからの激励が飛ぶ場面も。「腕が疲れたけど、一体感が生まれた気がする」と多くの人が満足顔だった。
その後、ビール評論家の藤原ヒロユキ氏も登場し、ビール愛好家のボルテージは最高潮に。サプライズで1パイントグラス(568 ml)と500ml缶が用意され、ビールを注いで改めての乾杯。イベント終盤には、インタビューの会話を聞き取るのも難しいほどの賑わいが生まれていた。知り合った人たちと写真を撮ったり、ハイタッチをしたりと笑顔の絶えない空間に。まさに、ビールを通して楽しい時間を共有することのできるイベントとなった。
「百人ビール・ラボ」第1弾、第2弾企画の取り組みについてはこちらからご覧いただけます。