新技術の活用、意外なメリットとは?
何か新しいことはできないか、パートナーである広告代理店に相談したところ静電インクを使った企画の提案を受けたという。これは名前の通り、通電性のある物質を含んだインク。このインクを含んだ印刷物がスマートフォンなどの液晶画面に接触すると、人が指で触った時と同じことを再現できるという。

「この技術を使えば、アプリを使わなくても面白いデジタル体験を提供できると思いました」と上野氏。これまで、上野氏はアプリを使ったキャンペーンの取り組みも行って来た。しかし「アプリの場合は、雑誌広告と組み合わせたときにダウンロードまでにハードルがあります。すごく強い興味があったり、ブランドに思い入れがないとダウンロードされない」という。
さらに、この技術には思わぬメリットもあったという。「インクなので、これまで通り印刷するだけです。アプリ開発といった手間やNFCを利用する必要がありません。そのため、結果的にコストの削減になりました」と上野氏。印刷がずれてしまう「版ズレ」が起きてしまっては仕掛けは機能しない。その問題も起きなかった。版ズレが起きる可能性自体低いものの、その点については「印刷所の技術力を信頼しました」とのこと。
デザインが「驚き」を支えた
今回、上野氏が最も重要視したのが「誰でもわかる・できる」ことだったという。あっと驚くような新しい広告を目指したため、使用した技術も広告での利用は世界初だった。当然、広告を見た人に予備知識はない。ユーザーに受け入れてもらうためには、まったく初めてのことでも簡単な説明があれば直感的に操作できる仕組み・デザインが必要だった。
「デザインについては、様々な案がありました。いろいろと試した結果、ターンテーブルとレコードに行き着きました」と上野氏。あえてアナログなモチーフにしたことで、レコードをどこに置けばいいか誰もが無意識に理解できるというわけだ。
「夏フェス」を感じられるデザインにもこだわったという。「ポカリスエットはスポーツ飲料だと考えられがちですが、流した汗を補うイオン飲料です。スポーツ以外でも汗をかくすべてのシーンで飲んでほしい。だから、炎天下のなかでライブを楽しむ夏フェスとポカリスエットは相性がいいんです。でも、デザイン的に気を抜くと単なるポカリスエットと音楽になってしまう」と上野氏は語る。そのため、音楽フェスの世界観や、夏のシズル感をどう組み込むかについては注意が払われた。「パッと見たときに印象が強いわけではありません。でも、そのような細部のデザインが、印象に残るためには大事」だという。
次はスマートフォン?
上野氏の狙い通り、本企画はユーザーにも驚きをもって迎えられた。ソーシャルメディアでの共有やシェア数が予想を上回るものだったという。また、反応を調べると、思惑通りシンプルで試しやすい点が好評だったという。さらに、紙を載せるだけで音楽が鳴るという仕組みに対して「どうなっているの?」と興味を持つ人も多かったようだ。
上野氏が予想をしていなかった反応もあるという。社内外から、この仕組みを別のことにも活かせるのではないか、という声が出てきたことだ。このような状況について上野氏は「別のところでも使っていきたいと感じています。次はみんなにとって身近なスマートフォンを絡ませるのがいいかもしれません」と語る。今回は新しいことが好きな人に刺さるように、スマートフォンに比べると利用者が絞られるiPadを利用した。次はさらに一歩進んで、より身近なツールとなっているスマートフォンで、とのこと。これから大塚製薬は、どのような「新しくて面白い」を見せてくれるのだろうか。
