3つの分野でオムニチャネル戦略を進行中
オムニチャネルについて、東急ハンズでは実際にどのような取り組みを行っているのか。緒方氏は、同社がオムニチャネル戦略の具体策を行っている分野として「ソーシャルメディア」「ネットストア」「スマートフォン」の3つを挙げる。
中でもオムニチャネルのきっかけとなったのが、2009年から取り組みを始めたソーシャルメディアだ。ソーシャルメディアの大きな強みは、購買の誘導からコンサルティング、アフターフォローまで顧客の動線すべてに対応できること。例えば、新商品のお知らせを告知し、リプライがあれば詳しい商品情報を提示し、購入後の問い合わせに応じるといったことが、1つのアカウントでてきてしまう。
そんなソーシャルメディアの取り組みに当たり、同社が留意したことがあるという。それは「東急ハンズが得意なことと、顧客から求められていることを混同しない」ということだ。東急ハンズが得意としているのは、豊富な商品知識に基づく確かな接客や、的を捉えつつも幅広いセレクトによる品揃え、時期やニーズに合わせたイベント等の開催だ。一方で顧客はそれを理解した上で、あえて別のものを求めている。それは気持ちの良いコミュニケーションであったり、未知の面白い商品やイベントとの出会いだったり、欲しい品物の詳細な情報だったりする。これにどのように応えるかが、ソーシャルメディア取り組みのポイントだったという。
シームレスな購買体験を提供するために
具体的に同社のソーシャルメディア活用状況を見ていこう。現在、東急ハンズのアカウントは、TwitterやFacebook、Google+などのほか、mixi、YouTubeなど主要なソーシャルメディアに開設されている。このほか、オムニチャネル戦略実現のきっかけとなった「コレカモ.net(以下、コレカモ)」がある。これは2010年にリリースされたTwitter連動型レコメンド・検索ロボット。鴨をイメージしたかわいいキャラクターが、商品の情報をTwitterで告知するbotだ。Twitterユーザーは自分が思い付いたモノ、欲しいモノを「@korekamo」に向けてつぶやくと、該当する商品を見つけ、店舗での在庫状況や価格を教えてくれる。

なぜTwitter連動型ロボットを開発したのかといえば、東急ハンズが最も注力しているソーシャルメディアがTwitterだからだ。具体的には、本社アカウントと店舗用アカウントを併用し、顧客との気持ちよいコミュニケーションや商品・イベントとの出会いの演出、商品ごとの詳細情報を伝えている。ブランドに紐付く大きな情報については本社アカウントより発信し、各店舗のアカウントではさらに顧客に近い位置でより詳細な情報を伝える。そのためソーシャルメディア戦略において最も重要なのは「店舗アカウント」と位置付け、顧客の来店を促している。
顧客にとっても、電話で商品の在庫状況を問い合わせたり、店頭が混雑している時に「あの商品はどこにありますか」と尋ねるより、Twitterで店舗アカウントに問い合わせる方が気軽にできる。また、顧客からの問い合わせのうち7割は、「この商品はありますか?」という内容だったため、情報発信・応対を強化するために誕生したのが「コレカモ」というわけだ。
「コレカモをリリースしたところ、大きな反響を呼びました。なぜなら、出かける前に欲しい商品がどこの店舗に置いてあるかが分かる。オフラインの在庫状況をネットで確認できるので、そこから送客につなげられる。ロボットなので、人手で在庫を検索するのではなく、数百万アイテムにも瞬時に対応できます。的外れな回答でも、かわいいキャラクターなので許される。そんなことから、多くのお客様に使われるようになったのです」
コレカモの運用により、顧客がリアル店舗の情報を手軽にTwitterで確認できるようになったため、満足度も上がるようになった。だがリリース当初カバーしていた商品は1万5000程度と、店舗の品揃えに比べると遠く及ばない状況だったという。そのため、精度を上げるという課題も浮上してきた。これをきっかけに東急ハンズは、リアル店舗の情報をネットで開示して、よりシームレスな購買体験を提供するという方向に進化した。そして、この方向性を強化・促進するために、ネットストア上でリアル店舗の商品情報や売れ筋商品データを掲示するという環境の提供と、それを可能にする商品データベースの強化に着手したという。